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第13話※

「あああ……っ! も、でな……!」  俺は春日の引き締まった腰に絡ませていた足を力無く下ろす。  何度、果てたか分からない。  どのくらいの時間が経ったのだろう。  すでに頭の中は真っ白で、泣き過ぎた声は枯れてしまっていた。興奮で濃かった白濁はすっかり薄くなっている。背に当たるベッドのシーツはもうぐちゃぐちゃだ。 「ムリ、無理だってぇ!」  一度の交わりでこんなに何度もイッたことはなかった。それなのに春日は体内に収めたまま、腰を動かそうとする。  俺は密着する胸を押した。 「出さなくても、イけるだろ?」  大好きだ、愛してる、と甘い言葉を紡いだ口で。熱を持っているが柔らかい眼差しで。  受け入れ難い言葉が聞こえて、俺は血の気が引く思いがした。 「……っ! お前、まさか!」  弧を描いた唇が、嫌な予感が的中していることを告げる。恐ろしくなって、いうことをきかない身を捩り、腰を引いた。 「逃がさない」 「だ、ダメだ! それだけは! これ以上はっ……! ぁあっ!」  当然逃げる事は叶わず、改めて奥を突かれて声が上がる。  間違いなく春日は、俺をドライでイかせようとしている。  抱いた相手がそうなっていた時のことを思い出す。その時はその姿に興奮したものだ。  しかし、あれを俺が?   想像しただけでゾッとする。  拒否しようにも、そんな話を聞いてくれる相手ではない。愛しい目の前の男は、両手とも、俺の指に絡めてしっかり握った。 「ここからは、俺の手だけ握ってて」 「む、無理って言って、ぁん、ひぅああ!」  首を振って訴えるが、聞き入れられるはずもなく。完全に覚えられた俺の良いポイントを執拗に責めてくる。  手を使えない、ということは。触らずにイかされるのだろうか。応えたい気持ちはある。  あるが、イける気が、しない。 「声、可愛い……大好きだ」  こちらの気も知らずに、うっとりと見つめて口付けられる。  バカを言うな。可愛い訳がない。本当は萎えそうだから聞きたくない。  最初は我慢していたのに、一度出し始めたら止まらなかったのだ。  歯を食いしばったり、口元を腕や手で押さえたりと声を出さない努力をしていたら、 「前も思ったけどさ。声、聞かせてくれよ。」  と悲しげな顔をされてしまった。  それが可愛くてつい、頷いてしまったのだ。  後悔、先立たずだ。 「たす、けて……! 頼む、やめて……くぅ……っ」  同意して抱かれているにも関わらず、涙が溢れて止まらなかった。どんどん迫ってくる快感にどうにかなりそうだ。 「怖くないよ、気持ちいいから安心して、俺に任せて……」  前の時に俺が言ったような台詞と共に、温かい舌が頬を伝う涙を拭う。  体から力が抜けて、全てを委ねそうになるのを堪えて縋る。 「お、俺はぁ! こん、な……の、俺じゃな……!」  そう、俺は、元々こんなに余裕なく喚くような柄じゃないのだ。  春日に抱かれてから、まるで体も心も作り変えられているようだった。  自分が自分ではなくなっていくような感覚になる。 「気持ち、良くない? このままイったら、天国、だろ?」  頭がおかしくなるほど気持ちが良かった。愛を囁かれ音が響きそうなほどに奥を刺激され、何もかも手放したくなった。  だが、それをすると。射精もせず、中だけでイってしまうと。  違う人間になってしまうかのように感じた。 「ぅ……、ぁ……! これ以上は、怖い! キてる……っこわい、こわいぃ!」  ただただ感情を吐露する。両手を握りしめて足を必死にバタつかせて抵抗を試みる。  そんな俺を見下ろしながら、どこか満足そうな表情の春日が吐息と共に言葉を出す。 「こんな姿、俺しか……っ、見たことない?」 「ない! なぃからぁ! イけないっ触って……! おねが、さわっあぁ……!」  イけないなんて嘘だった。  早く触ってもらわないと確実にこのままイってしまう。何の言い訳も出来ない。 「大丈夫、大丈、夫……! っ、俺が大丈夫じゃないなっ……締まって、良すぎる……っ」  言葉の通り限界が近そうな表情と声が聞こえる。啼きながらも、俺はそれに興奮した。  動かしていた足は、自然と動きを止めて奥が突きやすいように膝を曲げる体勢になる。お互い、腰を激しく揺さぶった。 「は、ぁう……! ん、ぁっあっ!」 「隼人、一緒にイこう?」  耳を甘噛みしながらの深い声に犯される。  それと共に体の奥底から波が湧き上がった。 「……!? ひ、ぁあぁあアア!?」 「……ん! …!? くぅ……っ」  想定外のタイミングだったらしい春日の声も、今までより部屋に響いた。 「あ、……あ……ぁ、ぅ……」  体は痙攣している。間違いなくイッた感覚がある。それなのに、新しく濡れた感じは全く無かった。  そのままずっと快楽が続くと錯覚するような幸福感に、だらしなく開いた口から意味のない音が出る。  放心していると、解かれた手で頬に触れられた。労わるように指先で撫でてくれる。 「はやと、さん」 「や……っ」  名前を呼ばれた。たったそれだけで体が震えた。  自分でも訳がわからなかった。 「ん?」 「呼ぶな、むり……!」 「隼人?」 「……! っ!」  強く目を瞑り、腰を跳ねさせる。  軽くイッてしまったことが伝わったらしく、強く抱きしめられた。 「可愛い!」 「この、やろ……うご、くな……! ほんと、に!」  文句を言いながら背中に腕を回す。耳元で満ち足りた声が聞こえた。 「ふふ……隼人、大好きだ。」 「あん……! っ、やめてくれって! ヘン、なんだ……!」  もうイき尽くしたはずの体が、すでに中から春日は抜けているというのに反応する。体が全く思い通りにならない。  荒い呼吸を繰り返しながら眉を寄せた。 「こんな、変になるのか……っ」 「隼人は変じゃないぞ」 「……っ、わざと、だろ……!」  嬉しそうに何度も何度も名前を呼んでくる。その度に、俺の体には電流でも走ったかのような感覚が襲う。  やられっぱなしは性に合わない。 「孝明……」  俺は唇をそっと触れさせながら名前を呼んだ。  至近距離の息が掛かり合う。 「うん……っ、何? はは、名前呼ばれるの、嬉しくてクる」  春日の肩が小さく震えるのを感じて目を細めた。同じなんだ。  緩く微笑みながら、もう一度口付ける。 「タカ……、ん、呼ぶ方も。なんか……」  胸が熱くなる、などとは恥ずかしくて言えずに飲み込んだ。 「じゃあ、今度は名前を呼びながらイって?」 「勘弁しろ!」  首筋に埋められた頭を思わず引き剥がした。  

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