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第6話 望月の転勤
翌日、唇の強く吸われたところにキスマークがついていた。
唇にもできるんだな、と呑気に思っている自分がおかしかった。
望月にキスをされて、正直に言うと気持ち良かった。
今までの、女とキスをしたどの経験より刺激的だった。
力強く攻められて、抵抗する間もなく侵略される。
頭の中が真っ白になった。
あの時、俺の下半身は明らかに興奮していた。
快感と理性、そして男に屈服させられる恐怖と快悦。
自分にそんな一面があることを、認めたくなくて断った。
あのまま、ホテルに行ってしまったら、もう今までの俺ではなくなっていただろう。
♢♢♢
翌日もちゃんと出勤したが、特に望月とは何もなかった。
次の日も何もなかった。
さらに言えば、望月が転勤するまで仕事上のやりとり以外、何もなかった。
望月はどんなときも、あのクールな表情を崩すことなく仕事をしていた。
望月は、いつの間にか全国転勤の総合職にキャリアチェンジしていて、年度の区切りで支店を離れることになった。
俺には後悔も安堵もなかった。
俺も、望月も、何もなかったように過ごしていたじゃないか。
あの月の綺麗な夜だけがおかしかっただけなのだ。
望月のことも、あの日の出来事も、忘れるわけではないが、人生のちょっとした一幕だったくらいになっていた。
♢♢♢
1年後、俺は結婚して、子どもが生まれた。
仕事は変わらず、不器用ながら中位の成績を維持していた。
出入りが激しい業界なので、半分は退職でいなくなり、転職者が来る。
上司も転勤で顔ぶれが一新だ。
古くからいる社員はかなり数が限られていた。
さらに4年が過ぎ、俺は37歳になっていた。
そんなある日、なんと望月がこの支店に帰ってくるという話を聞いた。
成績が振るわない支店へのテコ入れに来るのだ。
望月のその後の躍進ぶりは、誰もが知るところだった。
各地の潰れかけの支店を甦らせる「再興請負人」。
望月の判断は社長の判断とも言われた。
それだけ影響力の強い望月に低い評価をつけられたらリストラかもしれない、という噂が広まった。
役付きは転勤のある総合職のみ。
地域採用で転勤のない自分を支えるのは、営業成績だけだ。
成績中位くらいで生き残れるだろうか……。
妻と子のスマホ画面を見てため息が出た。
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