9 / 26
★第9話 早坂の答え
ホテルの部屋に入ると、すぐに望月は早坂の首の後ろに手を回し、キスをした。
望月は、まるで子どもがおもちゃをしゃぶるように早坂の唇を弄んだ。
望月の熱く荒い吐息が興奮を誘う。
5年前のキスとなんら変わらない。
まるであの時の続きのようだ。
シャツのボタンが外され、首元を望月の舌が這う。
望月の細く麗しい指先で、ズボンの上からそっと撫でられ、すでに体の準備はできてしまっていることがばれてしまう。
望月が、早坂のベルトに手をかけた。
「望月さん、せめてベッドで……」と言うと、望月はちょっと笑ってキスで答えた。
望月は早坂のスーツを脱がそうとしたが、早坂は「自分で脱ぎます」と言って脱ぎ始めた。
なんとなく、自分がまだ年上で、男であるとギリギリ思いたかったんだろう。
少しもたついていると、望月はさっさと脱いで、脱いでいる最中の早坂の首筋の後ろにキスをし始めた。
望月は後ろから腕を回し、早坂の乳首に優しく触れる。
今まで乳首で感じることなんて無かったのに、この非常事態でおかしくなってしまったのだろうか。
服を脱ぎ、ベッドに横たわると望月がのしかかってきてキスをした。
小さな顔。
ほどよくついた筋肉。
キレイな肌。
互いの肌が吸い付くように馴染む。
時々、望月の乱れた髪の隙間から表情が見えるが、見つめ合うことはなく、すぐキスをする。
二匹の獣が、快楽を求め、与えるだけの交わりだ。
ひとしきり互いの体を愛撫し終えると、望月は早坂の下半身を舐め始めた。
「あ……っ」
声が出てしまった。
子どもができてから、あまり妻とはセックスをしていない。
まして、妻はフェラをしてくれない。
だからと言って、別に不満はない。
夫婦の絆はセックスだけじゃない。
だが、今こうして快感が押し寄せてきて、自分の情けない声を自分で聞いてしまうと、そんなキレイごとは吹っ飛んだ。
さっきまでの力づくとは違い、望月は繊細に早坂の先っぽにキスし、舐める。
不思議な景色だった。
早坂は無意識に望月の頭をなでた。
愛しいというか、可愛いというか。
なぜそんな気持ちになるのかわからない。
早坂の中の”常識”が壊れていくのと同時に、望月の欲情に溺れたい欲求が湧き上がってくる。
それでもまだ、高まる衝動を抑えようとしたが、望月の口と手はどんどん激しくなる。
「あっ! もう……!」
イク寸前で望月は手を止めた。
「じゃあ、そろそろ交代しましょうか」
早坂はバッグの中からコンドームとローションを取り出した。
「入れてくれますか? やってみれば、女とやるのと大して変わりませんよ」
そう言って、望月は四つん這いになる。
望月のキレイな背中を一撫でし、挑発的な尻を掴んで、言われたように挿入していく。
「んっ……あっ……」
出し入れするのに合わせて、望月の苦悶とも快楽ともつかない喘ぎ声が部屋に響く。
最初は早坂も恐る恐る動かしていたが、望月の艶やかな声に遠慮がなくなっていった。
「あっ……!あっ……あぁ……!」
あの望月が、そんな声を出すなんて。
もっと聞きたい。
もっと乱れた望月を見たい。
早坂は望月を無理矢理仰向けにした。
望月は息を切らしながらも、まだ涼やかな表情だ。
望月のそれをしごくと、望月は快感に耐えるように顔をゆがませた。
高まってきたところで、望月の足を開かせ、一気に深く突いた。
「っ!ああっ……!」
望月は腰をのけ反らせ、顎をあげた。
「あっあぁっ……!」
望月の上気した顔がたまらなかった。
濡れた音とベッドの軋む音、望月の喘ぎ声。
望月は自分のをしごいてイッた。
望月の今のあられもない姿を見て、早坂も果てた。
行為中、二人は一度も目を合わせなかった。
早坂は、息を切らせながら横を向いている望月の髪を、静かに払った。
そこには、少年がいた。
母親のどす黒い愛情を背負った細い肩。
父親に頼れない心細さに耐えた浮き出た背骨。
男になり切れない細い腰。
何を見ているのか、何を考えているのかわからない横顔。
俺はまだ、望月のことを何も知らない……。
そんな言葉が頭に浮かんだ。
ともだちにシェアしよう!