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第25話 ケイの感謝

ケイと初めてセックスができた。 痛そうだった。 やっぱり可哀想で、自分が気持ち良かったかはあまり印象にない。 ケイも、いざやったら思ってたより気持ちよくなくて、もう懲り懲りと思っているかもしれない。 「何でも経験」という言葉が皮肉にも思い出された。 ―――――――――――――― ある日、彼女から、両親がいない日だから遊びに来ないかと誘われた。 行けば、当然のようにセックスの流れになった。 彼女の肌も、唇も気持ち良かった。 ケイの時のように、壊れるんじゃないかと気を遣わなくていい。 ちゃんと、男女が安心して結合できるように、神様は俺たちの体を作ってくれたんだな、と思った。 終わって、可愛い彼女を抱きしめる。 いい匂いがする。 これが普通だ。 ―――――――――――――― ケイは急に背が伸びて、俺と同じくらいになった。 女顔で明るい性格、バスケ部ということもあり女子にモテているらしい。 リクからも言われた。 「俺の妹、中3なんだけど、ケイのモテ具合すごいって言ってたよ。他の中学にまでファンがいるらしいじゃん。」 ケイは話が上手だし、気遣いできる。 何より、男のギラつきがない。 負けん気が無いから受験勉強は苦労したが、中性的な優しさに安心する女子は多いだろう。 そのまま彼女ができてくれたら良かったが、相変わらず俺にじゃれついてくる。 結局、あれからケイの中には入れていない。 なんとなく、俺の性欲は無くなっていた。 ケイはじゃれつきながら、キスをしたり、体を舐めてくる。 ケイから「入れてもいい?」と言われれば、大抵「いいよ」とこたえた。 入れられるのは俺の方だが、それはケイにとっては俺への奉仕だ。 どんな時でも、ケイは俺が気持ちいいかを気にしていた。 俺は性欲が無かったとしても、体の刺激で興奮し、気持ち良くなれた。 俺が気持ち良くなっている時の顔や終わった後にぐったりしているのを、ケイは満足気に見ていた。 一方で、彼女とのセックスには飽きが早かった。 頻度が少ないせいはある。 気持ちいいことは気持ちいい。 でも、するとなぜかそこで気持ちが冷めるのだ。 それが原因ではないが、彼女とは別れた。 ―――――――――――――― 別れたことはしばらくは黙っていたが、また何の気無しにケイに伝えた。 「そうなんだ。残念だったね。」 とは言っていたが、なんとも思っていないだろう。 それからしばらくして気づいたが、彼女と別れてからケイはキスやセックスをせがまなくなった。 やっぱり、対抗心だったのだろうか。 ―――――――――――――― 俺は高3になり、ケイは中2になった。 俺の勉強はますます大変になった。 勉強は嫌いじゃないとはいえ、毎日まとまった勉強時間が必要になった。 ケイは俺のピリピリした空気を読んだのか、まとわりつかなくなった。 ある日、悶々としてきて、ふと、ケイに目をやった。 ケイは真剣な眼差しで勉強をしている。 ケイが中学受験で頑張っていた頃を思い出す。 あんな、お人形さんみたいな細い指で鉛筆を一生懸命握って書いていた小学生のケイが、今は成長期で体も大きくなり、バスケ部のエースで力強くボールを操っている。 ケイがこちらの視線に気づいた。 「何?」 「いや、何でもない。時が経つのははやいな、と思って。俺もあと数ヶ月で大学生だよ。」 「……大学入ったら、家は出るの?」 「うん。できれば一人暮らししてみたいんだ。」 「そうなんだ。寂しいな。就職したら…ここには戻らないよね。」 「そうだね。」 「お義父さんと同じ、官僚になるの?」 「そう思ってる。」 「お義父さんも、お兄ちゃんも、カッコいいよね。俺はなんかフラフラしてて、将来、どうなっちゃうんだろ。」 「もう少し後に考えたっていいだろ。まだ中2だし。」 「周りはみんな夢があるんだ。俺はそういうのないんだよね…。」 ケイらしい悩みだ。 なんとなくなんでもできるけど、軸が無い。 昔はそれがいけないことだと俺は思っていたけど、それがケイらしさでもあると思い始めていた。 受験みたいに、ずっと俺がついててあげれるわけじゃない。 ケイが、自信を持ってできる仕事があればいいな、と思った。 「お兄ちゃんが、怒って出ていった日があるよね?」 「ああ。」 「あの時、もう、お兄ちゃんが帰って来ないかと思って怖かったんだ。」 「……ごめん。」 「責めたいんじゃないんだ。ずっと、お母さんは働いてて、俺は家に一人で。お母さんが大変なのはわかってたから、寂しかったけど、我慢してたんだ。だから、お兄ちゃんができて、嬉しかったよ。」 ケイははにかんで言った。 そして、ケイは改めて俺の目を見て、はっきり言った。 「俺のこと、ずっと面倒みてくれて、ありがとう。」 ケイは、爽やかに微笑んだ。 「……どうして……そんなことを言うんだ。」 思わず声が漏れた。 「え?今、なんて言ったの?」 ケイが聞き返す。 意図せず、涙が溢れてきた。 「お兄ちゃん?なんで泣いてるの?」 苦労が報われたから? ちがう。 「ティッシュ、使って?」 ケイにあの日寂しい思いをさせた罪悪感? ちがうだろ。 「ごめんね、俺のせいで…ずっと大変だったよね…。」 そうじゃないんだ! 今の、お前の感謝の言葉を聞いて、俺は、自分の本性に気づいたんだ! 『俺はもう、要らないのか?』 そんな言葉が、不意に浮かんだんだ。 母さんは、俺があんなにいい子にしていたのに、俺を捨てた。 お前も、俺とこんなに一緒にいたのに、もう要らないっていうのか? そして今、俺はケイを体で繋ぎとめようとしている。 俺は、そんな下衆な奴なんだよ。 ケイ、頼むから、気持ち悪いって言って、拒絶してくれ。 俺はもう、こんな異常な関係を、辞めたいんだ。 神様……どうか、俺とケイを……助けてよ……! スグルはケイの肩を掴んで、ベッドに押し倒した。

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