10 / 111

第11話 翌日⑤

 頭を優しく撫でられている感覚がし、瑞稀は目を覚ました。  ゆっくり目を開けると、 「おはよ、瑞稀」  病院に行ったはずの晴人がベッドのヘリに座り、瑞稀の顔を見つめていた。 「晴人さん!どうしてここに?」  瑞稀が飛び起きると、 「患者さんの容態が安定したから、帰してもらったんだ」  晴人はひょいっと瑞稀を抱き上げると、対面になるように膝の上に座らせる。 「よかった」  そう言い、瑞稀はふと窓の外を見ると、あたりはすっかり暗くなっている。  部屋の時計を確認すると、もう21時を回っていた。 「!!仕事に行かないと!」  慌てて瑞稀は晴人の膝の上から降りようとするが、 「大丈夫だよ」  晴人は、瑞稀を抱きしめる。 え? 出勤時間を過ぎてしまっているのに、大丈夫? どう言う意味だろう…?  瑞稀が首を傾げていると、 「今日から、新しい人が入るから、休みが増えるって言ってなかった?」 「…あ…」 そうだ。 僕の連休がなかなか取れないから、これからは連休も取れるようにって、オーナーが新しい人を入れてくれるって。 今日から、かすみちゃんの知り合いの人が、働きにくるって言ってた…。 それで、たしか僕、今日休みだった。 「まえ瑞稀が休みだって言ってたの思い出して。だからアラームが鳴ったとき切っておいたよ。あ、スマホの中身は見てないから」  渡されたスマホは、確かに見られた形跡はない。 「ロックかけてないですし、いつ見ていただいても、大丈夫です」  渡された自分のスマホを、もう一度晴人に渡す。 「瑞稀がいいって言ってくれても、それはダメだよ。でも俺のはいい。瑞稀以外の人には見られたくないのと、防犯のためにロックかけてるけど、暗証番号は瑞稀の誕生日だから」  晴人に「見ていいよ」とスマホを渡される。 「じゃあ僕も、晴人さんの誕生日、暗証番号にしてロックしておきます」  ロック設定を設定し、 「おそろいですね」  瑞稀は微笑んだ。 「そうだ、今日、瑞稀と家でゆっくり映画でも観たいなと思ってたんだ。どうかな?」 「映画ですか!観たいです!」   晴人さんと映画観るの大好き。 ピザともちろんサイドメニューのポテトとチキン頼んで、レンジでポップコーンも作るんだ。 しかも塩味とキャラメル味。 映画館のジュースみたいに大きな紙コップに炭酸ジュース入れて、蓋をしてストローで飲む。 2人の時間が合わなくて、なかなか映画館には行けないけど、晴人さんの部屋の大型テレビで2人っきり観るの、本当の映画館で観るよりとっても贅沢。 「じゃあ、僕、用意してきます」  瑞稀が立ち上がろうとすると、また、晴人に阻まれ、晴人の膝の上に座ったままだ。 「晴人…さん?」  不思議に思った瑞稀が晴人の顔を覗き込むと、晴人に首筋をスンスンと嗅がれる。 「今日の瑞稀、なんだか特別いい香りがする」  晴人はそういうと、瑞稀の耳を甘噛みした。 「ひゃ!」  突然の刺激に、瑞稀は晴人にしがみついてまった。 あれ? 晴人さんも、今日は特別いい香りがする。  ずっと嗅いでいたいようないい香りがし、瑞稀の頭はぼーっとしてきた。  瑞稀は晴人によりしがみついていると、 「急に変なことしてごめん。耳、痛くなかった?」  晴人に言われて、瑞稀はハッとする。 「大丈夫です。僕こそ、しがみついてしまって、ごめんなさい…」  なんだか、とてもいやらしいことをしてしまったようで、瑞稀は顔を真っ赤にした。 「瑞稀は本当に可愛いね」  晴人はクスっと笑い、 「ちゃんと捕まっててよ」 「わっ!」  瑞稀を抱きしめたまま立ち上がる。 「一緒に準備して、何を観るか一緒に選ぼう」 「はい!」  瑞稀は晴人に抱き上げられたまま、2人仲良くキッチンに向かった。

ともだちにシェアしよう!