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第22話 BAR ①

 2人が同棲し始めて3ヶ月が経ち、今は5月。  季節は春になっていた。  今日の夕食のメニューは晴人の好きな『おにぎり』  中の具は『昆布梅干』『しゃけとごま』『高菜おにぎり』  なぜ晩御飯が『おにぎり』になったかというと、今日晴人は仕事の後、学会とその後は懇親会だそうで帰りが遅い。  学会の前に、軽く食べると言っていたが、多分無理だろう。  そこで深夜帰ってきても、少しでも食べられる『おにぎり』を用意し、もし付き合いで飲んだお酒のせいでおにぎりとして食べられなくても、そのおにぎりにお茶をかければ『お茶漬け』になる具を選んだ。  大抵の日は、瑞稀の出勤と晴人と帰宅時間が入れ違いで一緒に食べられない。  それでも同じものを食べられるだけで、瑞稀は嬉しかった。 明日は何作ろうかな?  毎日の献立を考えるのは大変だが、晴人の喜ぶ顔が見られると思うと、頑張って料理の勉強をして、もっともっと美味しいものを食べてもらいたいと思う。 少し熱っぽくて頭痛もするけど、薬も飲んだし大丈夫かな?  オメガの薬と頭痛薬を飲み鍵をしっかりしめると、仕事のため瑞稀は部屋をでた。  初めてヒートがきてから、もうすぐ3ヶ月。  そろそろ2回目のヒートがきそうな時期だ。  大体のヒート時期を見計らい、瑞稀と晴人は一緒に休暇願いを出して、2人で過ごせるように薬で調節していた。 「おはようございます」  瑞稀はまだ誰もいないバーの裏口の鍵を開けると掃除をし、配達された酒とストックの酒のチェックをする。  グラスを磨いていると、かすみが食材の入ったエコバッグを持って元気よく出勤してきた。  そして、しばらくして眠そうなオーナーが店にやって来る。 「「おはようございます」」 「おはよう」  瑞稀とかすみが挨拶すると、大きなあくびをしながらオーナーも挨拶をする。いつもの光景だ。  出勤時は眠そうなのに、身支度を済ませるにつれて、落ち着いた仕事モードのオーナーになるので、瑞稀はいつもそのギャップに驚かされる。  高校を卒業と同時に家を出て仕事を探している瑞稀に、手を差し伸べてくれたのがオーナー。  強面だが根は優しくて親身。  いつでも瑞稀を助けてくれる、歳の離れた兄のようだ。  店がオープンの時間になると、待っていたかのように常連客がやってきて、オーナーとの話を楽しんでいる。  かすみは、いつもみんなに元気をくれて、瑞稀はおっとり、みんなを癒す。  店が雑誌に載るほどオシャレでも、高級感漂う感じでもないが、辛いことや嫌なことがあっても忘れさせてくれて、どんなに凹んでいても最後には『自分は一生懸命頑張ってるんだ!だから凄いんだ!』と自信を持たせてくれる。来た人にしか分からない憩いの場が瑞稀の職場なのだ。 晴人と瑞稀は、日が沈んでいくのを見ながら、いろいろな話をした。  晴人はプロポーズするため、ずっと計画を練っていて、瑞稀に気持ちを伝えるのは、思い出のこの公園の展望台だと決めていたそうだ。  ドライブデートは楽しかったが、いざプロポーズの時間が近づくにつれ緊張と不安で、口数が少なくなってしまい、瑞稀に不安な思いをさせてしまったことも、きちんと謝り、実は瑞稀に渡したリングと同じデザインのものを晴人(自分)ようにも作っていると言うことも告白し、なんだか晴人の可愛いところを、また新たに発見したようで瑞稀は嬉しかった。  今は婚約という形で、結婚式は瑞稀が20歳になって、番になっからしようということになり、結婚後の瑞稀の体調を見つつ、好きなだけ今の仕事を続けることにもなった。  もし、他の仕事がしたくなったら、転職すればいいし、家事は分担すればいい。  結婚したからと、お互いに負担になることは止めよう。  もし何かあれば話し合って解決しようと、晴人は言った。  夕食は帰り道にあった、うどんのチェーン店になった。  晴人としては「今日は記念日なんだから、特別なところで食べたい」といったが、学会やプロポーズのストレスで晴人の胃はかなり荒れていそうだった。  瑞稀は晴人の体を心配し、胃に優しく消化に優しいものにしようと提案したからだ。  瑞稀のなかでは、晴人との食事はいつも特別で、キラキラ輝いていた。

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