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第23話 二度目の…… ①

ーーー  店内も賑やかになり出した午後9時ごろ。 「瑞稀、ちょっと……」  カウンター内で、かすみと奈子の話を聞きながら、他の客のカクテルを作っている時に、瑞稀はオーナーに呼ばれた。 「はい」  なんだろう?と思いながら、オーナーの後をついていきスタッフルームに入る。 「瑞稀、今から晴人さんに連絡を入れて、今日はもう帰った方がいい」 「え?どうしてですか?」  オーナーが言った意味が分からず、聞き返す。 「微かにだが、フェロモンが出始めている」 「え!? だってまだ……」 ヒートになるには1週間早い。 それに体調の変化もなくて、いつもと変わらないのに……。 「俺はベータだけど昔から鼻は良くて、フェロモンの香りに敏感なのと、表情のとか雰囲気でわかるんだ。ここはタバコの匂いも、客の香水の匂いもあって、まだ分からないと思うが、多分もう少しフェロモンが出始めたら、気付く奴も出てくる」 「!」 「だから今日は早めに帰ったほうがいい。晴人さんと連絡取れるか?」  心配そうに瑞稀をみるオーナーに対して、首を横に振る。 「今日は学会で帰りが遅いんです……。だから連絡はしたくないんです」 どうしよう……。 どうしよう……。 どうしよう……。  不安が募るが、 迷惑をかけたくない……。  そんな気持ちもあった。  が裏腹に、脳裏では初めてヒートになった時のことが、思い出される。 あの時は晴人さんがいたてくれたから大丈夫だったけど、今はいない。 もしこんな状態でヒートになったら……。 もし他のアルファに気づかれたら……。 部屋を出る前に熱っぽかったのも、頭痛がしてたのも、ヒート(この)せいだったんだ。 あの時気づいていれば……。 もし、晴人でないアルファに襲われたら、抵抗できない…。  恐怖で震え出す。 「それでも、晴人さんに連絡を……」  オーナーが連絡を入れるように促すが、瑞稀は首を横に振る。 「今日の学会で、晴人さんずっとしていた研究を発表するんです……」  今回の学会で学生の頃から研究していた結果が出て、ようやく発表できることになった。  瑞稀は研究に力を注いでいた晴人の姿を間近でみて来た。  だからどうしても、自分のことで邪魔はしたくなかった。 「わかった。じゃあすぐに運転手が女性ベータのタクシーをよんでやるから、かすみちゃんに付き添ってもらって帰るといい」 「え……?」 でもかすみさんが抜けたら……。 「本当は俺が責任を持って送り届けたいが、こう言う時は女性のほうが、安心だろう」  オーナーはどこまでも瑞稀の体と気持ちを心配している。 「ありがとう……ございます」  徐々に瑞稀の体は火照りだし、ふらふらし始めだした。 「店のことは心配するな。新しいスタッフもいるし何とかなる。今は自分の体のことだけ考えてたらいい」  そう言うと、オーナーは急いで瑞稀をソファーで寝かせると、タクシー会社に電話をする。 「かすみちゃんを呼んでくるから、ちょっと待ってろ」  部屋の鍵を閉めて、かすみを呼びに部屋のドアのぶに手をかけた時、 「オーナー……ご迷惑をかけてしまって、すみません……」  自分の情けなさに、涙が出る。 「いいよ、そんなこと思わなくて。瑞稀は俺にとって、大事な弟みたいなもんだからな」  くしゃくしゃと瑞稀の頭を撫で、部屋を出た。  1人部屋に残された瑞稀は、急に不安とこれからどうなっていくのか?という恐怖が襲いかかってくる。 晴人さん、晴人さん、晴人さん……。  涙で視界が歪む。  その時、部屋のドアがガチャガチャと言う音がして、ドアが開かれる。 誰!? 怖い!!  瑞稀の体に力が入り、目をぎゅっときつく閉じると、 「瑞稀くん!」  入って来たのは、慌てたかすみだった。 「オーナーがタクシー呼んでくれて、あと2、3分で来てくれるって。私もついてる。絶対大丈夫!こう見えて、私、ボクシングしてるから」  瑞稀の気持ちが少しでも和らぐように、かすみは力こぶを見せる。  かすみの笑顔に、瑞稀の不安も少し薄れる。 「かすみさん……ごめんなさい……」  ハァハァと瑞稀の息が上がり、意識も朦朧としてきた。 「いいのよ。困った時は、お互い様」  かすみはあえて、急にヒートになってしまったことを、取るに足らないことのように言った。

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