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第31話 ドライブ ③

 公園に向かう車内はボサノバのBGMが流れ、瑞稀が何か話ても、晴人からは「そうなんだ……」と生返事。  信号待ちの時、晴人は意識してなさそうだが、何度もポケットを触る。  瑞稀はこんな様子の晴人を、みたことがなかった。 公園なんて、つかなければいいのに……。    泣きそうになるのを、瑞稀は我慢した。  公園は意外と近くにあった。 「ちょっと登るけどいい?」 「はい……」  瑞稀がそう返事をすると、晴人は瑞稀の手を握る。  海岸沿いに等間隔に二人がけ用のベンチが置いてあり、何組かのカップルらしい人たちが笑顔で座っている。  その道を進んでいくと上り坂が始まり、小高い丘を登っていく。  登って行く途中に子供たちが遊べる大型の遊具と、アスレチックがあった。  そこには沢山の親子連れが遊んでおり、元気な子供たちの声が聞こえてくる。  公園についてから、晴人は一切喋らなくなっていた。  ただ黙って丘を登って行くだけで…。  二人黙々と登って行っていると、瑞稀の足元にピンク色のボールが転がってきた。 あ……。  瑞稀がボールを持ち上げると、トコトコと3歳ぐらいの男の子が瑞稀のそばに駆けて来て、瑞稀を見上げる。 「このボール、君のボール?」  子供と同じ目線になるように瑞稀はしゃがむと、ボールを男の子の目の前に差し出す。 「うん」  少し恥ずかしそうにしながらも、男の子はしっかりと頷いた。 「そうなんだね。はい、どうぞ」  瑞稀が男の子にボールを渡すと、 「ありがとう、お兄ちゃん!」  満面の笑みで瑞稀からボールを受け取る。 「すみません、ありがとうございます」  男の子が走ってきた方から、一人の男性が駆けてきて、瑞稀にお礼を言う。 「パパ!」  男の子が父親に抱きつく。 「パパのいない方にポイしたら、ダメだからね」  そう言いながら、息子を抱き上げる男性の笑顔はとても優しい。  「ボール、ありがとうございました。拾っていただけなかったら、下まで取りに行かないとダメでした」  苦笑しながら父親は丘の下を見る。 「いえいえ、お役に立ててよかったです」  瑞稀は立ち上がった。 「パパとたくさん遊んでもらえて、よかったね」 「うん!」  男の子が元気に頷き、その様子を遠くから見つめる男性の姿が瑞稀の目に入いる。  瑞稀とその男性の目が合うと、男性は瑞稀と晴人にお辞儀をした。 あの人がママなのかな? 「それでは失礼します」  男性と男の子が去っていく後ろ姿を見て、 「素敵な家族……。羨ましいな……」  ポロッと瑞稀の気持ちが、言葉となって出てしまい、瑞稀は慌てて口を手で塞いだ。 この言い方だと、僕が家族を持ちたいみたいになってる……。  晴人は瑞稀と一緒にいたいと言ってくれてはいたが、それが家族になるのか?と言うと、それはまた別の話。  もし家族になるつもりがないなら、瑞稀が家族の話をするのを嫌がるかも……と家族に関する話は避けていた。   晴人さんに聞こえてしまったのだろうか……?  チラリと晴人を見上げると、晴人は瑞稀をじっと見ている。 聞かれてしまった……。 「あの、さっきのは……その……」  誤魔化そうにも、言葉が出てこない。 「瑞稀、もう少し歩くけどいい?」  先ほどのことには何も触れない。  瑞稀の不安は募るばかり。  瑞稀はただ晴人が握る手を、しっかりと握り返した。

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