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第45話 帰り道 ②

 晴人が見つけたのは、オープン早々に行列ができた人気店。  電話で問い合わせると、運よく座敷の個室が空いており予約を入れ、二人はそこに行くことにした。    日は沈み、街頭も店のネオンも煌々と輝いている。  道を歩けば、数人のスーツ姿の男性が店に入るところだったり、大学生ぐらいの男女が集まり、まだ集まっていない仲間を待っている姿も見られる。  空気は蒸し蒸ししており湿度は少し高め。今日の深夜から明日にかけて雨かもしれない。  繋いだ手に汗をかき始め、瑞稀が離そうとすると、晴人はぎゅっと力を入れてそれを阻止した。 「俺は繋いでいたいけどな。瑞稀は?」  そんな風に言われると、手汗をかいていて恥ずかしいから離したいとは言えない。  返事をする代わりに、瑞稀も晴人の手を握り返した。  こんな時間に二人で出かけるのはいつぶりだろう?  最近は人混みを歩くと、すぐに疲れてしまう瑞稀だったが、今日は特別。久々のデートに少しワクワクもしていた。  店の前に着くと、開店して間もないのに、外にはもう何組かのグループが並んでいる。  入店し、部屋に着くまでの間、テーブル席では楽しそうな食事を始めている客がいる。  出汁のいい香りがしていたり、サイドメニューを運ぶ店員の姿。  壁に貼られたオススメドリンクや、メニュー。  瑞稀はキョロキョロしてしまい、その姿を晴人は微笑ましそうに見ていた。  予約した個室に通され、晴人と瑞稀、向かい合うように座ると、 「では、ご注文はタブレットでお願いします」  元気な店員は出て行った。 「予約取れて、よかったですね」  メニューの入ったタブレットを手に取り、画面をスクロールする。 「ああ、瑞稀と二人っきりで嬉しい」  楽しそうにメニューを見ている瑞稀の姿を、片肘を付きながら晴人は眺めた。 「好きなのも頼んだらいいよ」  何を頼もうか決められない瑞稀の様子に、晴人は目を細める。 「晴人さんは何がいいですか?」  瑞稀がタブレットを晴人に渡そうとすると、 「瑞稀が食べたいのがいい」  とタブレットを瑞稀に返した。  何気ないが、幸せな時間。  晴人と一緒にいれば、こんな時間がずっと続く気がして、二人の幸せな未来を心待ちにしてしまう反面、今日、晴人の母親から言われたことが、頭の中にこびりついて離れない。  ふっと瑞稀の瞳の奥に悲しみが映る。 「瑞稀?」  急に黙りこくった瑞稀の事を心配した晴人が呼びかけると、瑞稀は慌てて笑顔を作る。 「瑞稀どれにするか、決まった?」 「えっと……」  メニューを眺めてはいたが、きちんと見ていなかった瑞稀は少し焦った。 「えっと、これと、これと、これ…なんてどうですか?」  瑞稀は急いでメニューに目を通し指差したのは『モッツァレラチーズと冷製トマトのカプレーゼ』『たたききゅうりと香味野菜のポン酢和え』『まぐろと長芋の和風だし和え』  全て晴人が好きそうなメニューばかり。 「うん、それにしよう。なべの種類は『豚しゃぶ』でいい?あと飲み物は烏龍茶?」  鍋メニューから晴人は豚しゃぶを指差す。 「はい、お願いします」  晴人はそれらを注文し、タブレットを定位置にいおいた。

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