47 / 111

第49話 最後のデート ①

晴人と話した翌日の出勤時。  瑞稀はオーナーに、晴人が『今、子供は考えていない』と言ったことを話した。  オーナーは「俺が話をつける」と言い、すぐにでも飛び出しそうになったのを瑞稀が止め、知らないことにしてほしいと念押しをした。  そしてオーナーにだけ、何も知らないことにしてくださいと頼み込んだ。  そして今日は晴人と瑞稀の仕事が休みの金曜日。 「瑞稀おはよ」  ベッドで眠る瑞稀の額に晴人がキスをする。 「おはようございます」  まだ眠気まなこの瑞稀は、ぼやけて見える晴人に『起こして』と手を伸ばす。 「あはは。今日の瑞稀は甘えただな」  晴人は瑞稀の体を起こした。    時計の針は9時過ぎ。  昨晩バーは忙しく、ずっと動きっぱなしだった。  オーナーは瑞稀の体を心配して休ませようとしたが、瑞稀はそれを断っていた。  迷惑にならない限り、瑞稀は自分を受け入れてくれたオーナーに、仲間に恩返しがしたかったし、バーテンダーという仕事を(まっと)うしたかった。 「瑞稀、今日はどうしたい?」  晴人は瑞稀の隣に座り、愛おしそうに頭を撫でる。 「朝ごはん食べたら、お弁当持って、この前行った公園に行きませんか?その帰りにスーパーに寄って晩御飯の材料と、映画鑑賞用のお菓子セットも買うんです。一緒に料理して映画を観て…。僕はそれがしたいです」  瑞稀は晴人を見上げる。 「今日は随分たくさんしたいことがあるんだな」 「もう少し減らしたほうがいいですか?」  予定を入れ過ぎたか……と瑞稀は反省する。 「そんなことない。素敵なスケジュールだと思うよ。俺は瑞稀のしたいって思ったことを、全部していきたいんだ。今日も、これからも、ずっと……。それに、たくさんわがままも言ってほしい。瑞稀はいつも、遠慮しすぎだぞ」  優しく晴人に抱きしめられるのが心地よかった。  朝の支度をすると、晴人が作ってくれた和食メインの朝食を2人で食べた。  先日の外食の味付けを参考に、晴人は出汁をしっかりとり、調味料は少なめな料理を作ってくれるようになった。  それまではあまり食欲がなかった瑞稀だが、味付けを変えてくれるようになって、食欲が少し戻ってきて、顔色も良くなってくる。    食後は公園に持っていくホットサンドを作った。  具材は定番の『たまごときゅうり』、瑞稀が好きな『えびアボカド』、晴人の好きな『ほうれん草とベーコン』、そして二人とも大好きな『トマトととろけるチーズ』  ホットサンドと果物をお弁当用のかごバスケットに詰め、コーヒーを水筒に入れる。  車で公園まで行っている間、瑞稀は晴人と出会った時の昔話を楽しそうに話していた。  話せば話すほど、晴人に対する気持ちが溢れてくる。  同時に、晴人(愛する人)に出会えたことが奇跡に思えた。  広い公園内を手を繋ぎ散歩する。  公園内を楽しそうに駆け回るたくさんの子供たち。  妊娠が分かり晴人との別れを決断する前の瑞稀であれば、元気な子供の姿を見ると、心が苦しくて悲しくなったていたが、今日はもうそんな気持ちはなく、どの子も元気に大きくなってほしいと思った。    二人で作った弁当は、晴人がプロポーズしてくれた場所で食べた。  気持ちの良い風が瑞稀の頬を撫でる。  瑞稀が全種類のホットサンドを食べた時は、晴人は目を丸くして、そして嬉しそうに微笑んだ。  デザートを食べた後、瑞稀は眠気に襲われ、うつらうつらと船を漕ぎ出す。  晴人が瑞稀の体を傾け膝枕をすると、いつもは照れて膝枕されず、すぐに体を起こしてしまう瑞稀が今日は素直に膝枕をされ、瞳を閉じる。  まだ太陽の日差しは厳しいが、真夏のようにヒリヒリと刺すような日差しはない。  秋に向かう、少し憂いを含んだ日差し。  瑞稀がそっと瞳を開くと、広く澄んだ空に鱗雲が広がっている。 「あ……鱗雲……」  瑞稀がつぶやくと、 「本当だ。もう、雲まで秋になってきたな」  晴人も空を見上げた。  晴人と再会して2回目の夏が過ぎ、空気や空までもが2回目の秋になろうとしていた。

ともだちにシェアしよう!