57 / 111

第59話 再開 ③

ーーーー  瑞稀は無我夢中で誰もいない掃除用具室まで走った。  用具室に入ると、急いでバタンッとドアを閉め、肩で息をしながら、その場に座り込んだ。 どうして……! どうして、ここに晴人さんが!?  驚いた晴人の顔が蘇る。 幸恵さんが言って得た『山崎さん』って、晴人さんのことだったんだ! でもどうして? どうして副社長秘書をしているの? どうして晴人さんが、ここに!? 晴人さんは、許嫁の方と結婚してご実家の病院を継がれたはず。 病院で院長になられているはず。 なのに……どうして……。 どうして……。  瑞稀は先ほど目の前で起こったことが、まだ理解できない。  走ってきたからか、突然晴人と再会したからか、心臓が激しく脈打ち苦しいほどだ。  少しでも落ち着こうと、瑞稀は胸に手をあて大きく深呼吸をする。  何度もしていくうちに、少しずつ冷静さをとりもどす。 どうしよう……。  違う不安が、頭をよぎる。 掃除用具、部屋の前に置いてきてしまった。 和子さんや幸恵さんに、先に行くって言ったのに、僕は用具室にも戻ってきてしまっている……。 副社長室に戻らないといけない。 仕事をしないと。 でも戻れば、晴人さんがいる。 あんな別れ方をしておいて、晴人さんにどんな顔で会えばいいのか……。 ……。  瑞稀が考え込んでいると、 —トントントン—    休憩室のドアがノックされた。 !!!  ビクッと肩を上下させ、咄嗟に息を顰めてしまう。 「瑞稀くん」   ドアの向こうから話しかけてきたのは、幸恵。 「詳しい話はわからないけど、副社長室で何かあったんでしょ?」 「……」  なんと答えていいかわからず、瑞稀は黙りこくってしまう。 「副社長室(あそこ)は私たちがしておくわ。だから落ち着くまで用事日(そこ)でゆっくりしておいで」  責めるようでもなく、優しい口調で幸恵はそう言うと、ドアの前から立ち去った。 ……。  瑞稀は幸恵に何も言えなかった。  ただ、このまま用具室(ここ)に隠れていてはいけない。と言うことはわかった。 だけど……。  今晴人にもう一度会えば、ずっと一緒にいたい気持ちが蘇ってきそうだった。   あんな酷い去り方をしたのに……。  晴人を目の前にすると、涙が出てきそうだ。 晴人さんは、もう僕の顔なんて見たくないはずだ。  そう思うのに、自分勝手なのはわかっているが、晴人にそう思われてしまうのが苦しい。   いつまで経っても、晴人さんとの日々を忘れられないのは僕だけ。  一瞬、副社長室の掃除を手伝おうかと廊下に出たが、どうしても一歩が出ずに、しばらく廊下に立ち尽くす。 仕事を、仕事をしないと。 でも、副社長室(あそこ)には行けない。  瑞稀はトイレ掃除用のセットを手に持つと、トイレ掃除に向かった。

ともだちにシェアしよう!