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第60話 再開 ④
大企業の本社ビル。
高層で掃除をする場所は多い。
瑞稀が一人トイレ掃除をしていると、副社長室や役員の部屋の掃除を終えた幸恵と和子が瑞稀と合流する。
仕事中、幸恵も和子も瑞稀と昴と晴人との関係を聞くこともなく、いつも通りの仕事を済ませていく。
お昼となり昼食と休憩になった時、
「瑞稀くん。山崎さんから瑞稀くんに『話したいことがあるから、空いている時間を教えてほしい』って伝言を預かっていて……。これ、山崎さんのスマホの番号が書かれているって」
和子から折り畳まれた一枚の紙が手渡された。
「私は瑞稀くんが話したくないって思ったら、話さなくていいと思うの。だって瑞稀くんが掃除用具を放り出して逃げたくなるほど、昔、怖い思いをしたからじゃないの?」
「そうよ、和子さんの言う通り。会いたくなかったら、私たちが山崎さんにきちんと言っておくし、役員室の掃除も私たちがしておくから、瑞稀くんは行かなくてもいいわよ。私たちは瑞稀くんの味方だから!」
幸恵が力強く言う。
幸恵さんと和子さんが味方になってくれる。
心強かった。鼻の奥がツンとし、目頭が熱くなる。
でも同時に晴人は悪くないのに、晴人だけ悪者になるのはいけないとも思った。
お二人にはきちんと話をしないと……。
瑞稀は幸恵と和子に初めて晴人と会った時から、千景を妊娠して別れるまでの話をした。
決して晴人が悪いわけでも、晴人の母親が悪いわけでもなく、全部自分で決めた結果で、悪いのは自分だと。
自分のことを大切にしてくれた晴人を傷つけたのは、自分だと。
そして晴人が千景のことを知ることになっても、千景は晴人の子供だと言うつもりはないと言うことも。
話をしている間、幸恵も和子も黙って瑞稀の話を聞き、瑞稀が全て話終わると、和子は、
「今まで本当に一人でよく頑張ったわね」
瑞稀の手をしっかりと握った。
「私達 は瑞稀君がだけが悪いだなんて思ってないわ。その時はその選択しかなかったのよ。でも今は私達がいる。もっと私たちを頼っていいのよ」
「そうよ! もっと頼って」
幸恵と和子は微笑んでいるが、目には涙が浮かんでいる。
「和子さん、幸恵さん……」
今までの辛かった思いが、軽くなった気がした。
「本当に山崎さんは、悪くないんです」
もう一度、キッパリと瑞稀は言う。
そして決意をした。
「ここで山崎さんを避け続けていれば、山崎さんが悪者になってしまいます。だから僕…山崎さんときちんと話をします」
どんな顔をして晴人に会えばいいかわからない。
でもこのままにしておくことはできない。
「仕事が終わったら、山崎さんに連絡をします」
瑞稀は自分に言い聞かせた。
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