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第61話 再開 ⑤

 千景のお迎えに遅れないようにと、幸恵と和子の気遣いで瑞稀はいつもより早く仕事を上がらせてもらった。  晴人は副社長秘書。  忙しくないわけない。  瑞稀は晴人に連絡して、すぐに捕まるとは思っていない。  瑞稀は仕事帰りにある喫茶店に入ると、スマホと和子から受け取った紙をカバンから取り出した。 メッセージだけでも……。  メールのアプリを開き、晴人の宛先が書かれた紙をひらくと、 あ……。  瑞稀の手が止まった。 変わってない……。  瑞稀は晴人の元を去ってから、スマホの番号を変えたが、晴人の番号は瑞稀と別れる前と同じ番号に同じアドレス。  瑞稀の中で、忘れたくても忘れられなかった番号。  夢の中で何度も晴人のスマホにかけてしまった、忘れられない番号。  番号をゆっくりと宛先に入れていく。  紙を見なくても覚えているはずなのに、何度ももらった紙に書かれた番号を確認してしまう。  意を結し、メールを打つ。 『晴人さん。  午後5時半までか、夜9時半以降で晴人さんのいい時間帯を教えていただけませんか?こちらからご連絡させていただきたいと思います。  お忙しいとは思いおますが、よろしくお願いします。    瑞稀    』  メッセージを入れる。  何度も何度も読み直す。 まさかまた晴人さんにメールを送る日が来るなんて……。  送信を押し、返信を待つ。  すぐに返信があるとは思っていない。  だが千景のお迎え時間に間に合う時間まで、喫茶店で待とうと思った。  晴人に会えるかもしれない。  そう思うと嬉しさでドキドキするが、酷いことをして、勝手に姿を消したのにどんな風に、どんな顔をして会えばいいのかわからない。  不安と緊張で、心拍があがる。 「もう会うことなんてないと思っていたのに……」  ポツリと言った時、 ——♫ ♩ ♬♪——  着信音が鳴った。  画面を見ると晴人の番号だ。  ドクンッと心臓が大きく脈打つ。  汗ばんだ手でスマホを持ち、通話をタップする。 「はい……、瑞稀です……」  普通に話そうと思ったが、消え入りそうな震えた声しか出なかった。 『………』  5秒ほど沈黙が流れ、 『瑞稀……』  懐かしい声がした。  声を聞くだけで視界が歪むほど、瑞稀の瞳に涙が溜まる。 『元気にしてた?』  瑞稀が知る、優しい声。 「……はい……」  そう返事するだけで、精一杯だった。 『よかった……』  安心したような晴人の声がして、胸が締め付けられる。 『瑞稀、今大丈夫?』 「はい」 『今から会える?』 「はい」 『今どこ? 会いにいくよ』  晴人とあって話をするために、自分から連絡したのに『会いにいく』と言われドキンッと瑞稀の胸が鳴った。  『会いたい』気持ちと『会うのが怖い』気持ちが入り混じる。 「……。会社の近くの喫茶店にいます」 『レンガの壁に緑の屋根の喫茶店?』 「はい、そうです」 『わかった。今から行く』 「はい……。お忙しいのに、すみません」 『気にしないで。俺からお願いしたことだし、それに早く瑞稀に会いたい』  晴人との思い出が『会いたい』『好きだよ』『愛してる』そう言ってくれた晴人の姿が思いだされ、我慢していた涙が、後から後から流れてくる。 こんな僕にどうしてそんなこと……。 あんな酷い去り方をした僕に、そんな優しい言葉を……。 ——僕も会いたいです。ずっと会いたかったです——  ぐっと堪えないと、気持ちが言葉になって口にしそうになった。  でもそれは絶対に言えない。 晴人さんとは、もう終わったんだから……。  頬を伝う涙を拭い、 「お待ちしています」  そっと目を閉じた。

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