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第62話 再開 ⑥

—カランカラン——  店のドアが開き、かけられていたベルが鳴る。 「ああ山崎さん。いらっしゃい。何かお忘れですか?」  店のオーナーが晴人を見て、不思議そうに言った。 「いえ、今はある人に会いに」  そう言いながら晴人があたりを見回すと、晴人の方を見ていた瑞稀と目が合い手を振る。  そう言ってから晴人は瑞稀の前に座った。 「注文はまだ? 俺はコーヒーにするけど、瑞稀はカフェオレでもいい? 昔、好きだったよね」  目の前に晴人が座り、昔のように話しかけてくれ、好きなものまで覚えてえくれている。 「はい……」 「じゃあ……」  と、晴人は自分のコーヒーと瑞稀のカフェオレを頼む。  一気に昔に戻ったみたいで……。  でもそれは幻だとわかっていて……。  時間は確実にあの日から5年の月日が流れている。  奥歯を噛み締め、膝の上に置いている両手に力を入れ、瑞稀は泣きそうになるのを我慢した。 「あの……お忙しいのに時間を割いていただいて、すみません」  晴人の顔を見ることができず、瑞稀は下を向く。 「それは気にしないで。俺が時間をつくって欲しいって頼んだんだから……」  多分晴人は瑞稀の方をしっかり見ながら言っていると、瑞稀は思った。  だがどうしても瑞稀自身は罪悪感で顔を上げることができない。 「瑞稀……元気にしてた?」  もう一度聞かれた。 「はい」  俯き、膝の上で握る拳を見つづけながら瑞稀は答える。 「千景君は元気?」 「え!?」  晴人の口から突然千景の名前が出てき、虚をつかれた瑞稀は頭を上げた。 「副社長から聞いたんだ。瑞稀には『千景君』っていう男の子がいるって」 ああ、内藤さんから聞いたんだ。  できるなら晴人には千景のことは知られたくなかった。  だが副社長(内藤さん)の秘書をしている晴人なら、千景のことは知っていてもおかしくない。 「はい、元気です」  緊張で顔が引き攣りそうだが、晴人から目を逸らさないようにする。 「5歳だって?」 「はい。4月で6歳になります」 「そうなんだ。瑞稀に似て可愛いんだろうな」 「僕には似てないですよ。どちらかといえば……」  そこまで言って、もう少しで『晴人さんにそっくりです』そう言いそうになり、瑞稀はハッとし口をつぐんだ。 「父親似?」 「……はい……」 「父親って、瑞稀が手紙に書いていた『好きな人』?」 「……」  長い沈黙の後、 「はい……」  答えた。

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