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第85話 突然のヒート ②
晴人は瑞稀から視線を外し、ギリっと歯を噛み締める。
「瑞稀飲める?」
瑞稀の上半身を晴人が起こすと、口を開けるように促すが、潤んだ瞳で晴人を見上げる瑞稀には、晴人の声は聞こえていないように見える。
「瑞稀、口開けて……」
瑞稀の息遣いが荒くなってくる。
「ごめん……」
マスターが用意してくれた水と瑞稀のヒート抑制剤を晴人は口に含むと、瑞稀に覆い被さるようにキスをし、
「んっ……!」
水と共に薬を瑞稀の口の中に流し込み、瑞稀はそれを飲み込んだ。
はぁはぁと荒かったの息は少しずつ整ってくるが、瑞稀のフェロモンの香りは濃くなってっくるばかり。
突然のヒート。
しかも前回のヒートから五年も経っている。
急激な変化に、瑞稀の身体はついていかない。
身体が疼き、楔はズボンの中で硬くなりどくどく脈打つのがわかるぐらいで、後孔からは蜜がとろりと流れ出すのがわかった。
怖い……。
無意識の間に、瑞稀は晴人の胸にしがみつく。
「タクシーで家まで必ず送り届けるから、安心して」
昔のように大きな手で頭を撫でられると、氷が溶けるように恐怖心が溶けていく。
晴人さんと一緒なら、大丈夫……。
晴人の香に包まれ、幸せな気持ちになる。
5月の木漏れ日のような暖かさと、草原で感じるような爽やかで清々しい香りがする。
愛しい人の香りが……。
どんなに足掻いても無理だった。
晴人に抱きしめられると、そのまま何もかも流されたくなる。
自分が晴人にどんな仕打ちをしているのかわかっているのに、晴人の優しさに飲み込まれたくなる。
瑞稀は自分の意思で晴人の背中に腕を回すと、晴人は無言のまま瑞稀を抱きしめ返し、そっと髪にキスをした。
「心配いらない……。俺は何もしないから」
晴人は自分のことを心底拒否し続けていると思い込んでる瑞稀の気持ちを汲み、そう言った。
すぐにタクシーは喫茶店に到着した。
瑞稀の家に向かおうとしたが、その時には瑞稀の頭は朦朧とし、自宅の場所を伝えられなかったため、とりあえず瑞稀の体調が落ち着くまで晴人の自宅で薬の効きを待つこととなった。
「瑞稀、着いたよ」
晴人が住むマンションについてから、抱き抱えられ移動していた瑞稀は、晴人の部屋の寝室のベッドの上で寝かされた。
「体調どう?辛い?」
晴人はベッドのへりに座り、瑞稀の頭を撫でる。
「体に熱がこもってるけど、もう薬が効いてきてもいい頃だから、すぐに楽になるよ」
「本当……ですか……?」
体温が体にこもっているだけではない、火照りと全身に絡みつくような疼き。
こんな体験は初めてだ。
「ああ、大丈夫。俺は隣りの部屋にいるから、何か欲しいものがあったら、電話かけてくれたらすぐに持っていくよ。スマホ、枕元に置いておくね」
晴人は瑞稀のポケットからスマホを取り出し、ベッドのすぐ隣りに置いてあるサイドテーブルに置こうとした時、
「!!!」
スマホの画面に指があたりロック画面が表示されると晴人の動きが止まり、画面を凝視しながら固まった。
「……。何か、あったら…電話して……」
数秒、スマホの画面を凝視した晴人が悲しげに瑞稀を見つめ頭を撫でると、瑞稀に背を向け一歩踏み出そうとする。
「待って……」
薄れていく意識の中、瑞稀は無意識的に晴人の服を掴んだ。
「……!? ……瑞稀……?」
「行かないで……」
もうほとんど意識のない中、潤んだ瞳で晴人を見上げる。
「……え……?」
「晴人さん…苦しい……。僕を、癒して……」
そう言った時、瑞稀のフェロモンが爆発的に放たれ、部屋中、瑞稀のむせかえるような甘い香りが部屋中に充満した。
「っつ……耐えろ……」
聞こえるか聞こえないかほどの声で、晴人が唸る。
胸ポケットに入っているラット抑制剤が入ったピルケースを取ろうとしたが、何かの禁断症状になっているかのように、晴人は大きく手が震え指先まで力が入っておらず、抑制剤全て床に落とした。
「クソっ……!」
床に落ちた抑制剤を拾おうと、晴人が屈むと瑞稀と真正面から目が合い、
「抱いて……」
瑞稀が囁いた。
「……)
晴人は目を大きく見開いたかと思うと、ぎりっと晴人は奥歯を強く噛み締め、視線を床に落とした。
視線の先には抑制剤。
「行かないで……」
瑞稀が晴人に手を伸ばす。
「……っ」
もう一度、晴人がぎりっと奥歯を噛み締めると、苦しそうに顔を顰め、
「瑞稀が望なら……」
そう言って瑞稀にキスをした。
とても胸をきつく締め付けられている……そんな悲しそうな顔で……。
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