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第90話 噂 ①
瑞稀はヒートの翌日とその次の日の二日間休み、ヒートになった3日後から出勤した。
会社ビルがある最寄り駅を降りた時から、瑞稀は色々な人からの視線を感じる。
なんだろう?
今までそんなことはなかった瑞稀は、不思議に思いながら会社ビルに歩いて行き、3人組の女性のそばを通り過ぎようとした時、女性達は嫌なものでも見るような視線を瑞稀に向けた。
「ほら、あの子……」
「よく、普通の顔をして出てこられるわね」
わざと瑞稀に聞こえるように言い、横目で瑞稀を睨む。
「副社長も山﨑さんもかわいそ~」
今度はしっかりと瑞稀に聞こえるように言うと、早足で瑞稀を追い越して行った。
え?
なんのことを言われているのかわからず、その場で立ち止まると、
「あ、あの子」
「本当、あの子だ」
今度は二人組の男性に指を差される。
瑞稀が男性達の方を見ると、
「やっぱ、美人さんだな」
「取り合うのもしかたないか」
品定めするように、足先から頭の先まで見られた。
え?
立て続けに何を言われているのからないことを言われ、瑞稀は戸惑い当たりを見回すと、瑞稀の周りにいる人たちは、何かを囁きながら瑞稀のことを白い目で見ている。
え?
なに?
今の状況がわからず、戸惑い立ち尽くしてくると。
「瑞稀くん、おはよ」
笑顔の和子が瑞稀のそばまで歩いてきた。
「お、おはようございます」
「今日はお天気がいいわね」
周りは瑞稀を白い目で見ているのに、和子はいつもと変わらず瑞稀に話し掛ける。
「千景くんは元気に保育園に行った?」
「はい」
「もうすっかりお兄ちゃんになってるんでしょうね。また写真でも見せてね」
「あ、はい」
「あ~、そういえば昨日テレビでね、どうぶつの赤ちゃん特集してたんだけど可愛くてね~」
「そうなんですね」
「それでね……」
和子はなんの変哲もない話を続け、瑞稀は相槌を打つ。
まるで和子は話をし続けて、瑞稀に何か考える時間をなくしているようだ。
そんなことをしているうちに会社に付き着替えを済ませると、通勤中のことが気になりつつも、瑞稀は用具室に向かう。
「瑞稀くん、おはよう」
そこには着替えを済ませた幸恵と和子がいた。
「おはようございます」
元気に挨拶をすると、気まずい雰囲気が流れている。
「こんなこと、瑞稀くんに知らせるか迷ったんだけど、何も知らないで不安になるより、知った方がいいかな?って幸恵さんと話をしてね」
和子は幸恵に目配せをした。
「とりあえず座っておくれ」
幸恵は瑞稀を椅子に座らせると、
「実はね……」
幸恵は社内でまことしやかに囁かれている噂を話し始めた。
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