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第93話 電話 ②

 晴人と再開できた時は、心底驚いたし困惑した。  でもそれ以上に晴人と一緒にいられる時間は夢のようだった。  ダメだとわかっていても、千景と晴人のやりとりを見守るのは、幸せだった。  だけどそこには、晴人と千景と瑞稀と3人が一緒にいる本当の幸せはない。  晴人と昴の関係を壊してしまう。  自分のせいで拗らせてしまったことは、自分でなんとかしないといけない。 「それ、本気で言ってる?」  晴人の鋭い視線が瑞稀に向けられる。 「はい」 「瑞稀、俺に言わないといけないこと、あるよね」 「ないです」 「そう ?よく考えてみてよ」  よく考えなくても、言わなくてはいけないこと。  それは千景が晴人の子だということ。  それしかない。  でも、 「ないです」  瑞稀は晴人から目を逸らさずに言った。 「……」  晴人はじっと瑞稀を見つめる。  その視線は、瑞稀の隠していることなんて、全てお見通しだというような、強いモノだった。    胃がキリキリ痛む。  晴人の視線がハリのように鋭く、全身を刺していくよう。   何か言わないと。  思うが、晴人の気迫に押しつぶされそうで、何も言えない。 どうしよう……。  そんな時、瑞稀の上着のポケットに入っていたスマホの着信音が鳴った。 しまった。 マナーモードにし忘れてた。 「すみません」  瑞稀がポケットからスマホを取り出し画面を見ると、発信元は千景が通う保育園。  今まで保育園から連絡がきたのは、千景が高熱を出して迎えに来てほしいと言う時だった。 保育園で何かあったのだろうか?  不安が頭をよぎるが、この話が終わってすぐに掛け直せばいいと思い、拒否の場所をタップし、きちんとマナーモード設定をする。 「僕は山﨑さんにお話しないといけないことは、何もありません。副社長、山﨑さん。今まで色々と……」  そこまで言いかけた時、また胸ポケットに入っているスマホに着信が入る。  今度はマナーモードにしていたので、バイブ音だけ。  音はならないが、ブーンブーンという振動音は聞こえてきて、しばらくしてから止まった。 すぐにお礼を言って、あとでかけなおそう。 「今まで色々と気にかけてくださり、ありがとう……」  またスマホがバイブする。  こんなに何回も、しかも連続して着信があったのは初めてだ。  嫌な予感が胸を掠める。 「出ないの?」 「え?」 「でたら? 俺、まだ瑞稀と話したいこと、たくさんあるから。誰からの電話?」 「保育園からです」 「じゃあ出ないと。こんなに何度もかけてくるってことは、急用かもよ」 「でも……」  瑞稀が電話に出ること躊躇している間に電話は切れ、間髪入れずにまた電話がかかってくる。

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