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第94話 電話 ③

確かにこんなに何回も電話がかかってくるのはおかしい。 千景に何かあったのかも!  瑞稀は慌てて電話に出る。 「はい成瀬です」 『よかった電話が繋がって。お母さん、ブランコに乗っていた千景くんが、持ち手から手を滑らせてしい、後むきに落ちてしまって、後頭部を切って血が出て今、救急車で病院に運ばれています』  瑞稀が電話をとるや否や、電話越しの保育士が早口で話した。 後頭部を切って出血!? 救急車で運ばれている!?  衝撃的なことすぎてスマホを持つ手が震え、落としてしまいそうになるのを両手で支える。 「ブランコから落ちて出血!? 出血の量は、出血量はどうなんですか!?」 『素人判断なのですが、出血量は多かったと… …。大切なお子様をお預かりしていたのに、少し目を離した隙にこんなことになってしまい、本当に申し訳ございません!』  電話の向こうで頭を下げる姿がみえるような声で保育士が謝っているが、瑞稀にはそんな言葉は耳に入ってこない。 「千景は出血したら、なかなか血が止まらないとお伝えしてますよね。そのことは救急隊委員の人には伝えてもらってるんですか!?」 「もちろんです! そばで千景くんが怪我をした時、一番近くにいた保育士が千景くんについて行っていますが、お母さんも急いで病院に向かってください! 〇〇病院です。園長も……』  保育士が何か話を続けようとしたが、何も言わず瑞稀は通話を切った。 どうしよう! どうしよう!!  いますぐに病院に行かないといけないことは、頭ではわかっている。  だが千景が頭を切り出血するという大怪我をしたことでパニックになり、体が言うことを聞かず動けない。 どうしよう! 早く行かないと!! だって千景は……!!  最悪の考えが頭に浮かび体が震え出し、瑞稀は両手で両腕を掴む。 「千景くんがブランコから落ちて出血したんだって!? 容態は、容態はどうなんだ?」  晴人が瑞稀に問いかけるが、晴人の声は瑞稀には届いていない。 「容態はどうなんだ? 出血したら、なかなか血が止まらないってどう言うこと?病院はどこなんだ? 瑞稀しっかりしろ!」  パニック状態の瑞稀の肩をガクンっと大きく揺さぶると、瑞稀はハッと正気を取り戻す。 そうだ! こんなことをしている場合じゃあない!  我に返った瑞稀は、晴人に向かって土下座をする。 「晴人さん、千景を助けられるのは、晴人さんしかいないかもしれないんです! だからどうかお願いです! 僕と一緒に病院に行ってくれませんか?どうかお願いです。この通りです!!」  瑞稀は床に額を擦り付け、晴人に懇願した。 「!? 瑞稀、それどう言うこと!?」  晴人はしゃがみ、瑞稀の肩を手で押し上げ、顔を顔を上げさせようとするが、瑞稀はがんと頭を上げない。 「どうかお願いです! 僕と病院に行ってください!」 「瑞稀説明してくれ」  瑞稀の肩を晴人は揺さぶる。 「晴人、今はそんなことをしている場合じゃない。表に車を用意させた。すぐに病院に行くぞ。瑞稀くん、俺も一緒に行ってもいいかな?」  昴は膝をつき、瑞稀に話しかける。 「え……?」  瑞稀が頭を上げると、 「こう見えて俺、結構大きな企業の副社長だからさ、俺も一緒に行ったほうが何かの役に立つかもしれない。ね」  昴が微笑みながら瑞稀の背中を摩ると、自然と落ち着いてくる。 「はい!お願いします」  瑞稀が立ち上がると、3人は車が待つ正面玄関に急いだ。

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