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第17話 12月25日
サンタからのプレゼントは25日の朝に届く。
カーテンの隙間から差し込む光で、那央は目を覚ました。
隣には、橘が眠っている。
一夜だけの恋人関係は叶った。
サンタの魔法は本当だったのだ。
那央は橘の体に顔を擦り寄せた。
お酒のにおいと汗のにおいが混じっている。
ずっと、こうしていたい。
その唇で甘い言葉をささやいてほしい。
その瞳で自分だけに微笑んでほしい。
その手でもっと撫でてほしい。
どこにも行かないでほしい。
ずっとずっと愛してほしい。
でも、きっと、目を覚ましたら、魔法は解けてしまうんだろう。
酔った勢いで。
気の迷いで。
一夜の過ちだったということになるんじゃなかろうか。
そう思ったら、悲しくなってきた。
じわっと涙が出て来た。
いつの間に起きたのか、橘の手が那央の頭をなでた。
「おはよう。」
「おはよう…ございます…。」
橘は那央の額にキスをした。
昨日、あんなにみだれた自分を思い出して、また恥ずかしくなる。
「ちゃんと返事を聞かなかった…ような気もするんだけど…。俺たち、付き合うってことでいいんだよね?」
那央は息をのんだ。
一夜だけじゃないんだろうか。
「…はい…。よろしくお願いします…。」
「良かった、夢じゃなくて。」
橘の声は明るい。
橘は、那央の唇にキスをした。
王子様のキスだ。
「昨日の那央…すごく可愛かったよ。」
そう言って橘は那央を抱きしめた。
「いや…もう、恥ずかしすぎて…。」
橘の顔をまともに見れない。
「俺…昨日みたいに欲情できたの、初めてなんだ。」
「…どういうことですか?」
「なんか今までは、自分ってセックスが好きじゃないんだと思ってた。流れがそうなったから、仕方なくする…みたいな。でも、昨日は本当に…那央が可愛かったから、色々してあげたい気持ちになったんだよね。」
そうなんだ。
自分が橘にとって、特別になれて嬉しい。
「多分、俺は、出会った頃から那央のことは好きだったんだ。だけど男同士だから、そう思わないようにしてたんだと思う…。だから今こうしていられて、俺は幸せだよ…。」
橘はまたキスをした。
ゆっくりと唇をはみ、舌をからませる。
漏れ出る吐息も、触れ合う鼻も、全部愛おしい。
愛を、肌で感じている。
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午前中は結局ベッドの中で過ごし、遅いお昼を食べに外に出ることにした。
支度をしていると、度々橘がキスをしてくる。
「あの…このままのペースだと、出かけられないんですけど…。」
「なんか…俺、キスが好きなんだね。初めて知った。」
そう言って橘は無邪気に笑った。
休日ということもあり、街はクリスマスムードが最高潮だった。
「思い出の、先輩がぶたれたスポットですよ。」
「このお店がある限り、思い出すんだな…。」
橘は感慨深そうに言った。
「実は、ぶたれた理由はさ、那央のことなんだよ。」
「俺ですか?」
「俺が最後まで、那央を好きだと認めないから、怒っちゃたんだよ。『那央がかわいそうだ』って。」
「そ、そうなんですか…。」
まさか、彼女に同情されていたとは。
「きっと、彼女の方が、俺の那央への気持ちに早くから気づいてたんだと思う。なのに、俺が彼女にしがみついて、自分に正直にならなかったから…。殴られて、ようやく那央にちゃんと告白しようと決心したんだ。まさか、間髪いれずに会うとは思ってなかったけど。でも、今しかないだろうと思って……居酒屋にいたときは、緊張してたんだよ。」
飲むペースが早かったのは、失恋のせいじゃなかったのだ。
なんか、そう言われると嬉しいような、恥ずかしいような。
そんな会話をして歩いていると、あの宇宙人サンタを発見した。
「先輩!ちょっと、一瞬用があるんで、ここで待っててください!」
そう言って、宇宙人サンタの元に駆け寄った。
「おお!兄ちゃん!会いたかったで。実は、兄ちゃんに謝らなあかんことがあんねん。」
「な、なんです?」
「魔法な、実は出来なかったんよ。なんかうまく行かなくて、サンタ族に問い合わせたらな、『そんな都合の良いことできるわけないだろ!』って、めっちゃ怒られた。」
じゃあ、昨日のことは、魔法は関係ないってことか…!
「お詫びに、この福引券あげるわ。あそこで引けるからな。ホンマ、堪忍や!じゃあワシはもう行かなあかん。想いが通じるとええな。がんばりや。」
「サンタさん…ありがとうございました!」
急いで遠ざかるサンタの背中に声をかけた。
橘の元に戻り、福引をしに行った。
ガランと回すと、金色の玉が出た。
「おめでとうございます!一等の天空のリゾート、ペア宿泊券です!」
高らかにベルが鳴らされた。
「すごいよ那央!このホテル、山の上にあって、5組しか泊まれないんだ。ひと組ずつ独立した建物に宿泊するんだよ。朝日や雲海、夕焼けに星空…。雄大な景色を独り占めで堪能できるのがウリなんだよ。」
すぐさま、橘と天空のリゾートで一緒に空を眺めているイメージがついた。
「すごい、クリスマスプレゼントだね…。」
那央は、渡されたチケットをまじまじと見た。
好きな人といるだけで、こんなにも嬉しくて楽しい。
橘の手をにぎり、またレストラン探しに歩き始めた。
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