18 / 94
第18話 エピローグ
翌年、那央は私学の教員として採用試験に合格し、橘も就職浪人をしながら過ごしながらも宇宙開発技術機構に内定が決まった。
そしてクリスマスイブ。
2人はアンプデモアのバイトを終え、いつものように那央のアパートに向かっていた。
橘のキス魔属性が開花したことでお客さんには交際がバレ、オーナーには店内では節度を守れと厳重注意を受けた。
「俺がキス魔というか、キスをすると那央がエロく返してくるからついついしたくなるんです。俺ばっかりが悪いみたいに言わないでください。」
と、恥ずかしい弁でオーナーに言い返し、「飽きるまで外でやってから来い!」と、言われてしまった。
街を歩いていると、ふいに橘の元カノの話になった。
「あの時の彼女、例の彼と結婚したんだよ。今、妊娠してる。」
「そうなんですね!幸せそうで良かった…。」
「彼女はさ、家庭に恵まれない子のためにボランティアをやってて、そこで今の旦那さんと知り合ったんだ。卒業後、そういう子どもたちをケアする会社を2人で起業したんだよ。彼女こそ、夢に真っ直ぐな人だよね。」
すごい女性だ。
「もしかしたら、俺と付き合ったのも、俺が片親で苦労してたように見えたからかもしれないね。」
橘はなんでもできるかっこいい大人だと思っていた。
でも、一年、恋人として一緒に過ごしてみると、橘は甘えん坊で寂しがりやだ。
男としてリードできちゃうからこそ、甘えたい気持ちを彼女に出せなかったのかもしれない。
元カノは、色々わかってたのかもしれない。
悪く思っていたことを申し訳なく思った。
――――――――――――――――――
アパートに着き、部屋のエアコンをつける。
「最近、新しいコーヒー豆を買ったんです。今から淹れていいですか?お酒は部屋があったまってからで…。」
「そうだね、オーナーからもらったケーキもあるし。」
コーヒーを淹れる準備をしていると、後ろから橘がハグをしてきた。
「わあ!びっくりした…。」
「思ったんだけどさ、もう深夜だしコーヒー飲んだら寝れなくなるかな。」
「あ、確かに。でも、豆、出しちゃいました…。」
「まあ、いいのか。クリスマスイブだし。寝かせる気もないしね。」
橘は、ふふっと笑って、那央の頭をなでながら、那央のこめかみにキスをした。
たったこれだけで、橘への好きな気持ちが溢れてくる。
本当に俺はちょろい奴なのだ。
ー 第一章 那央の片想い〈完〉ー
ともだちにシェアしよう!