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第26話 マンション
夜7:30。
藤波のマンションへ行く。
街から近くて便利な立地だ。
エントランスもオートロックで、藤波の部屋と通話して解除してもらう。
全体的に、ホテルのような立派な作りだ。
部屋に着くと、浴衣姿の藤波がドアを開けた。
「ま、中に入って。」
促されて、玄関に入る。
玄関もやはり広く、廊下を歩くとリビングだ。
大きなテレビにソファ。
リビング入り口側にキッチンがある。
「ここは、見ての通りだよ。橘君の部屋はこっち。」
リビングの入り口近くの右手側に廊下が伸びていて、廊下をちょっと行くと、突き当たりと、右に2つ、左に1つ部屋がある。
藤波は右手側の手前のドアを開けた。
部屋に入ると、入ってすぐに机があり、右側奥にベッドとクローゼットがある。
綺麗なシンプルなホテルみたいだ。
「足りないものがあったら言ってね。普段は客室だから、簡素なんだ。ちなみにこの部屋の隣は家政婦の部屋だよ。」
藤波は、次に廊下の左側にあった部屋を案内してくれた。
「物置になってる。なんてことはない。」
広い部屋で、本棚と引き出しと棚が並んでいる。本や生活用品が向きの乱れもなくピシッと詰まっている。
家政婦が管理しているのかもしれない。
几帳面さが滲み出ている。
最後に奥の部屋だ。
「俺の部屋だよ。掃除とベッドメイキングをお願いしたい。」
ドアが開くと、不思議な香りがした。
「お香が好きでね。」
部屋の中央にローテーブルがあり、香炉があった。
右手側にベッドとクローゼット。
左側に机と椅子があり、横に大きな本棚が壁のように立っている。
机には、本や紙が散乱し、足元にはダンボールが積み重なっている。
「物は触らないでくれ。自分なりに、中身と場所がわかった上での配置だから。」
どこか1ヶ所でも崩れたら、全部崩れそうだ。
「早速だけど、夕食作れるかな?前もって言ってないから、本当に簡単なものでいいけど。」
「わかりました。ちょっと冷蔵庫を拝見します。」
橘はキッチンに向かった。
ダイニングキッチンでカウンターのようになっている。
椅子もあるので、そのままそこで食事をしているようだ。
藤波がカウンター席に座ると、まるでヒュッゲと同じ風景だ。
冷蔵庫を開けると、大抵のものは揃っていた。
お店のようにきちんと物が並べられていて、わかりやすいし、取り出しやすい。
冷蔵庫のドアには1週間の献立が書いてあった。
さらに冷蔵庫の脇にはノートがあり、めくると、手書きのレシピだった。
ノートを見ると、藤波の一番の好物は牛すき焼きのようだ。
ただ、今からそれではちょっと重いだろう。
パラパラめくると、鮭のホイル焼きが出て来た。
今回はこれに決めた。
「橘君も夕飯はこれから?」
「ええ、そうです。」
「じゃあ、当たり前だけど、自分の分込みで作ってね。君のことは、家政婦として雇ったんじゃないんだ。不思議な同棲相手として関わりたいんだよ。できれば、対等であってほしい。」
「ああ……はい……。」
料理をしながら曖昧に返事をする。
まだ、イメージがつかなかった。
「名前も、下の名前で呼び合おう。俺はカナメだ。橘君はリオンだったね。フランス語で”ライオン”の意味だ。」
「そうなんですね。知りませんでした。」
野菜を洗いながら答えた。
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