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第27話 リオンの母

「莉音の親御さんはどんな方なんだい。」 藤波はカウンターでウイスキーを呑み始めた。 「母はシングルマザーで、母の実家で祖母と3人で住んでました。母は昼はお弁当屋さん、夜はスナックで働いていました。」 「おや、夜の仕事がうまいのは、お母さんのおかげかもしれないね。」 「どうでしょう。そんな話が上手い人には見えないんですけど。」 鮭と野菜をホイルに包み、味付けしてフライパンに乗せ、火をつける。 「莉音は、お母さんのことをどう思っているんだい?」 「経済的に豊かではなかったので、母が働き詰めで不憫でした。なのに、大学に行かせてくれて、しかも、就職に有利とは言えない宇宙研究に進みたいと言ったとき、母は喜んでくれました。一度も心配されませんでした。すごく……感謝しています。」 天然出汁のパックを火にかけ、野菜と豆腐を切って入れる。 冷蔵庫には、家政婦が用意していてくれた煮物と漬物があった。 適当な小鉢に盛り付ける。 「素晴らしい器量の方だね。そんな母親に育てられた莉音少年は今、どうなったんだい?」 「そう……ですね。母と同じように働きづめではあります。ただ、宇宙に関わる仕事に向かっているので、辛くはありません。もしかしたら母も……私を生き甲斐に頑張ってくれたかもしれません。」 自分の目を覚まさせてくれた、那央のことを思っていた。 愛しい那央がいるから頑張れる。 母が応援してくれた夢を、那央が繋いでくれたのだから。 「早速、いい話をありがとう。鮭と、味噌汁のいい匂いがしてきたね。」 お盆に乗せて、定食風に出す。 橘は藤波の隣に自分の分を置いた。 「急に頼んでこんなにちゃんとしたものが出るとはね。いや、イイ人に巡り合えて良かったよ。」 藤波は、いただきます、と手を合わせて言って食べ始めた。 橘も同じようにして食べる。 「うん。うまい。」 藤波が食事をするのを初めて見た。 いつもはナッツしか頼まない。 線が細い体に似合わず、うまそうに頬張る。 食器はどれも使いやすくが高級感があった。 どのような工夫が凝らされているかはわからないが、箸も持ちやすく使いやすい。 お米も炊飯器も、高めなのだろうと感じる。 自炊でこんなにおいしい白米が食べられるとは思わなかった。 「あの……失礼ですが、すごくよい暮らしをしているなと思って……。要芽さんのお仕事は、小説家だけなのですか?」 「いや、他に不動産と株の収入があるんだ。実家のおかげで、俺名義のがあるんだ。」 不労所得というやつだ。 「なるほど……。自分には無縁の世界です。」 「俺は、手を使って仕事をする人が好きなんだ。野菜を育てて、魚を獲って、道路を作って、料理をして……みたいな。そういう人たちのおかげで、たくさんの人が暮らせる。偉いことだよ。それに比べて、数字がカタカタ変わるのを見て金をもらうのはつまらないね。だから、作家業は俺なりのささやかな反抗だよ。じゃないと、知能を奪われたペットと同じだ。」 藤波は味噌汁をすすった。

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