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第28話 家政婦ノート
食事が終わり、あと片付けをする。
食洗機は便利だった。
洗い物の時間が無くなり、代わりにおつまみが作れる。
ナッツとオリーブを盛り合わせて、リビングのテーブルに置いた。
藤波はソファでウイスキーを飲みながら本を読んでいる。
橘もソファに座る。
酒はブランデーにした。
普段、那央はカクテルやサワーしか飲まないので、なかなかこういった落ち着いた雰囲気で酒を飲むことがない。
橘は家政婦が残したノートをめくった。
レシピノートは単独一冊。
他の家事でまとめて一冊になっていた。
「すごくマメな家政婦さんですね。」
「そうだね。きちっとしてるよ。」
藤波は本を読みながら答えた。
「俺が来たら……この家政婦さんは一カ月おやすみですか?」
「一応ね。ちゃんと給料は一カ月分払うから、長めの春休みみたいなものかな。」
すごくいい雇い主だ。
レシピノートを見て、明日の献立を考える。
「明日は何を食べたいですか?」
「明日は1日家にいるから、それを踏まえてくれれば。」
レシピノートのアドバイスによると、藤波はうどんが好きで、うどんなら自分で茹でて食べるらしい。
昼はうどんで決まりだ。
朝は案外トーストセットが多く、夜の食事を楽しみにしているようだ。
思ったより、三食が重くなくて助かった。
橘の予定は、明日は、研究室からそのままバーの仕事なので、藤波が自分で準備できる夕食にしなくてはならない。
とりあえず、中華の方向で、冷蔵庫と相談しよう。
そう思ってノートを閉じる。
藤波がいつの間にかこちらを見ていた。
「そのノート、どう思う?」
「え?素晴らしいな、と。わかりやすいし、要芽さんのことを本当によく考えているな、と思いますよ。」
「その家政婦とはね、10年以上の付き合いなんだ。」
「そうなんですね!もう、家族みたいな……。」
「俺も、彼も、10年間何も変わらない。人間、そんなに変わらないもんかね、とびっくりするよ。」
「彼……。家政婦さん、っていうから、女性とばかり思っていました……。」
思い込みとは恐ろしい。
「実家の使用人の息子で、高校卒業後、同じように使用人として働き始めたんだ。俺の2こ下で、俺が一人暮らしをするのを機に、俺の専属になったんだ。」
「お金持ちの世界は違いますね……。」
「そうかな。結婚も同じようなものじゃないかな。むしろ結婚の方が加えて愛情があるじゃないか。使用人を雇うより難しいよ。」
そう言われれば、そうだけど。
藤波がまた本を読み始めたので、翌日の準備にとりかかった。
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