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第31話 休日
翌日、那央から返信があった。
次の月曜日が橘の休みだが、那央は午前中に授業がある。
午後からは会えそうだったので、ランチから合流することにした。
その後はショッピングと、夜のイルミネーションを見る予定だ。
その日は那央のアパートに宿泊することにして、藤波にも許可をもらった。
藤波から、セックスをするよう言われたことが気になっていた。
今回がよい機会な気もするが、どこかでまだ躊躇われる自分がいた。
♢♢♢
そして月曜日になった。
待ち合わせのレストランに先に着いて、席をとっていると那央が来た。
昼間に外で会うのは久しぶりだった。
二人きりの時の甘い雰囲気がなくなると、思っていたより那央にも男らしさがあると感じて驚いた。
「なんでもない日にフレンチなんて、どうしたんですか?」
「例の、作家先生が気になってるお店なんだ。偵察して来いって。カジュアルフレンチで、安くて美味しいらしい。偵察代までくれたから、ここは気にしないで。」
藤波は先日の話が気に入ったと言って、お小遣いをくれたのだ。
「先生、すごいですね。太っ腹……。じゃあ、お言葉に甘えて。」
話題は、バーでの出来事、藤波に作っている料理の話になった。
話しているうちに、料理が提供される。
料理はどれも美味しかった。
この後も急ぎの予定はないので、ワインも頼んだ。
安価な割に美味しかった。
那央は少し顔が赤くなっている。
那央にはまだワインは大人のお酒のようだ。
ショッピングは、卒業する那央の先輩たちへのプレゼント探しになった。
雑貨屋巡りをする。
那央は先輩たちの好みを一つ一つ思い出しながら買っていく。
自分は、先輩へのプレゼント探しも、自分がもらうときも、もっと簡単に考えていた。
こんな風に一生懸命な後輩がいたら可愛いだろうな……。
那央の先輩たちにまでやきもちをやく。
那央のマメさに感心しつつも、彼氏としての自分は、買い物を早く終わらせて、二人きりで過ごしたい気持ちがあった。
♢♢♢
夕方から街のイルミネーションが映えてきた。
十分キレイだが、今回はそれが目当てではない。
街から少し離れた農場に、バスで向かう。
農場に着くとすでに夜になり、空気も澄んでいてより一層寒く感じられた。
高い建物が周りになく、空が広い。
広大な敷地にある、建物や木々がイルミネーションで飾られている。
幻想的で、本の世界に入ったようだ。
木に巻かれたピンク色のライトがまるで桜のようだ。
那央と初めて会ったあの3月。
大学の敷地には桜並木があり、咲き始めていた頃だった。
なつかしい。
あの時、たまたま那央がカフェに入らなければ、今こうしていることはなかった。
「……初めて出会ったときのこと、覚えてる?」
イルミネーションを眺めながら言った。
「アンプデモアで会ったときですよね……。覚えてますよ。だって……俺は、その時に橘さんに一目惚れしたんで……。」
「え!そうなの?初めて聞いた……。」
びっくりして、那央を見た。
「だって、かっこ悪いじゃないですか。好きな気持ちを隠して一緒にいたなんて。いちいち、先輩が優しくしてくれたり、離れたりしたことに一喜一憂してたんですよ。」
那央がもじもじしている。
そういうところが可愛い。
「先輩は……彼女がいたから、そんなこと、考えなかったですよね?」
「……いや、なんか、今思えば、当時から那央のことを可愛いと思うことはたくさんあったよ。俺にとって、可愛い……っていうのは、好き、ってことなんだな。」
改めて気づいた。
「……最近、俺のどこを可愛いって、思いました?」
「一目惚れだって言って、もじもじしてるところ。」
「……閾値低くくないですか?」
那央は笑って言った。
「確かに。」
自覚がある。
橘も笑った。
今すぐにでも抱きしめたい、キスをしたい。
周りがイルミネーションを見ていることを確認して、那央の額にキスをした。
「……帰って、あったまります?」
那央が頭を寄せて来て言った。
「そうだね……。」
二人はきらめくイルミネーションを後にした。
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