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第47話 同人誌

高校では文芸部に入った。 本はよく読んでいたが、最初から文芸部に入るつもりではなかった。 たまたま部活紹介の場で同席した、同学年の坂上が面白い奴だったから一緒に入部した。 坂上は社交的に見えたが、どこか他人と距離を置いていた。 彼は、輪に入るそぶりもない僕に、積極的に声をかけてきた。 最初は僕への哀れみからかと思っていたが、ある日、彼は自分がゲイだとカミングアウトしてきた。 同性愛自体はなんでもないことだが、自分がそれを仄暗いことだと思えば、そうなるだろう。 世の中の「普通」がわからない、「普通」に合わせる苦痛は僕にもわかる。 結局、坂上と一緒にいることが増えた。 坂上は、男性同士の恋愛小説を僕に貸してきた。 どの話が、どう面白いかを嬉々として語る。 坂上は、美少年好きだった。 坂上の好みがはっきりしていたので、坂上を主人公に作品を書いた。 相手のモデルは翔優だ。 舞台は平安時代の貴族社会。 口のきけない美少年が、箏を弾く。 そのミステリアスな雰囲気に惹かれた貴族たちが、次々に少年を抱く。 主人公とようやく結ばれるが、最後、少年は嫉妬に狂った一人の貴族に殺されてしまう、という悲恋の物語だ。 「面白かったよ!竹取物語のBL版みたいな……。でも、最後が悲しすぎて……。俺、ハッピーエンドが好きなんだけど……。」 坂上は感情移入しすぎて、しばらくヒロインロスになっていた。 「にしても、よく濡れ場をこんなに書けるね。もう色々経験済みなの?」 「いや。君が貸してくれた本から描写を拝借してるよ。」 「器用だね。モデルの翔優君にもいつか会いたいんだけど……。」 「ああ。演奏はぜひ聞いてくれよ。小説では全く喋らないけど、本人は少し話すよ。」 翔優を差し出すわけじゃないが、本人の見た目は坂上の美少年好きに十分適う。 ある日、坂上を家に招いた。 相変わらず筝が鳴り響いている。 中2ともなれば、体も伴ってきて演奏力は高まっていた。 「箏って、もっと優雅なイメージだったよ。こんなに鳴るんだね。」 普段の大人しさからは想像がつかない、叫びのような、嘆きのような、行き場を失った龍が猛り狂うような演奏だ。 翔優の好きな曲は、激しく、技巧が凝らされている曲だ。 翔優の先生は、彼の背景を考慮してか、本来の習う順番を無視して本人の好きな曲だけを教えてくれた。 翔優は、勝手に練習してうまくなっていった。 ノックして入る。 翔優はキリのいいところまで演奏を辞めない。 そういう二人のルールにした。 箏に関しては、僕は彼に敬意を払っていた。 「……小説の通りじゃん……。」 坂上は、心を奪われたようだ。 「まだ中学生だから、手を出すなよ。面倒事はごめんだ。」 「わかってるよ。俺だって社会生活はある。要芽のように貴族じゃないから。」

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