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第51話 フランスへ

フランスに到着した。 飛行機のタイヤの不具合で、空港で3時間待たされ、10時間以上のフライトで、翔優はすでにくたびれていた。 日頃の体力づくりの怠りが響いている。 夕方に到着するはずが、すっかり夜だ。 ベルナール夫妻が空港に出迎えてくれた。 おおらかな性格を表したような中年太りのアルソンと、反対に痩せ型で引き締まったベルナール婦人。 どちらもフランス人らしい、スタイリッシュなレザージャケットを生かしたコーディネートだ。 「ヨウコソ、藤波さん。ショウユウ君、ヨロシク。」 アルソンは多少日本語をかじっている。 婦人は話せないそうだ。 僕と翔優は日本語で挨拶と自己紹介をする。 獅堂が流暢なフランス語で通訳する。 夫妻は親日家だ。 息子は大学生で、娘は翔優と同い年。 娘は箏を日本人から習っているらしく、箏は娘から借りることになっていた。 ベルナール夫妻は笑顔を絶やさず、表情豊かに接してくれる。 赤子のときからしかめ面だったような僕や、無表情が美しさにすらなる翔優とは対照的だ。 実業家の家と聞いて、豪邸をイメージしていたが、藤波家の屋敷とあまり差はなかった。 代々引き継いでいる古い建物を大切に修繕して使っているようだった。 遅い時間だったので、軽食をとり、すぐに部屋で休むことにした。 部屋は、翔優と一緒だった。 僕が風呂から戻ると、翔優は掛け布団の上で寝ていた。 キャリーバッグが開きっぱなしで、パジャマにも着替えていない。 うっかり横になって、そのまま寝てしまったのだろう。 「翔優、風邪をひくよ。」 声を掛けるが、起きる様子がない。 「翔優。」 肩を叩いた。 翔優はハッと目を覚ました。 「あ……すみません。」 「謝ることじゃないけど。そのまま寝たら風邪をひくよ。旅は、体力を削られやすいからね。荷物整理はそこそこにして、早く寝た方がいい。」 「はい……。」 翔優はまだ寝ぼけた様子で、バッグを閉じ、着替え始めた。 僕は目覚ましをかけてベッドに横になった。 翌日はベルナールの息子同伴で近所の散策をし、昼過ぎから翔優は演奏準備をする。 僕は何もすることはないが、トラブルがあったら翔優一人では対応できないだろうと思い、無駄にそばにいることになっていた。 「電気を消していいですか?」 「ああ。おやすみ。」 「おやすみなさい。」 慣れない寝具だが、疲れが勝り、眠気が順調に襲ってくる。 今から寝られば、体力回復には充分だ。 フランスの1日目が無事に終わろうとしていた。 ふと、もそもそと布団が動く感触がした。 ぼやけた頭で動いた方を見る。 翔優だ。 翔優は眠っている。 トイレに起きて、寝ぼけて入ってきたのだろうか。 「翔優……。」 声をかけて揺さぶってみるが、起きない。 今回の旅は翔優が主人公だ。 翔優の箏が下手に終わる……ことはないが、翔優に何かあったら、台無しだ。 翔優のベッドに自分が移動することも考えたが、何か解せなかった。 間違ったのは翔優だ。 なんで自分が他人が寝たベッドに移らなきゃいけないのか。 翔優は使用人の息子だ、という意識も手伝って、移動はしないことにした。 ――――――――――――― 翌日、目覚ましが鳴っても翔優は起きないので、強く揺さぶって起こした。 「……あ……おはようございます……。」 そう言って、上半身を起こした。 状況がわかっていない顔をしている。 きっと、ここがフランスだということも忘れているだろう。 「昨日、君が僕の布団に勝手に入って来たんだからね。僕が誘ったんじゃないよ。」 坂上の影響もあり、はっきりと身の潔白を表明した。 「……すみません……。」 翔優はしおらしく謝る。 もう少し慌ててもいいと思うが。 急いでどく様子もなく、ベッドの上にいる。 「まあ、いいよ。せっかくのフランスだ。街に行こう。」 翔優は「はい。」と言った。 心なし、声が明るいような気がした。

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