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第52話 街歩き

朝食をとる時間だが、まだ外は夜のように暗くて、日本のような爽やかな朝とはいかない。 天気に左右されない僕には関係ないけれど。 簡単な食事を済ませ、息子のイザークが町案内をしてくれた。 その頃には辺りは明るくなっていた。 「この町は小さなお店が多くて、お店の人も家族のように接してくれマス。」 イザークは日本語が流暢だった。 イザークも妹のエバも、アニメから日本語を勉強したらしい。 通訳がいらないということで、町歩きは獅堂抜きの三人だ。 「ショウユウの演奏、動画で見たよ。素晴らしいネ。」 イザークは笑顔で言った。 「ありがとうございます。みんな熱心に聞いてくれたので、がんばれました。」 翔優は答えた。 「翔優、人としゃべれるようになったんだな。イザークさん、翔優は日本では無口なんだ。ぜひ色々話しかけてほしい。」 「ああ。”ユウベンは銀、チンモクは金”デスね。」 「そうだね。しゃべりすぎる僕より、無口な翔優の方がチャンスを得ているよ。」 イザークは笑った。 都会から離れた町で、テレビでよく見かけるヨーロッパの石畳み、かわいらしいお店が立ち並ぶ。 イザークお気に入りの雑貨店、本屋を巡り、喫茶店に入る。 どのお店も、店主の趣味がよく出ていて、どこに入っても面白い。 店主も総じて愛想がいい。 品物について聞いたり、イザークと店主の世間話に加わる。 イザークは明日のチャリティコンサートのチケットを配っていた。 「こちらのショウユウが演奏するんだよ。」 そう言って、動画を見せる。 見た目から想像できない迫力の演奏にたいがいの人が驚く。 写真を一緒に撮ってくれと頼まれたりもした。 喫茶店でランチをとる。 ランチはイザークのおすすめを頼んだ。 「翔優、日本での半年分くらい人と触れ合ったな。」 「はい。みなさん優しくて、ビックリしました。」 「ショウユウはどうして箏を始めたんデスか?」 「僕は……学校に行ってなくて、勉強を要芽さんが教えてくれました。箏を始めたきっかけも、要芽さんの勧めです。」 「カナメは人を見る目があるんデスね。」 「勉強は教えてないし、箏も勧めてないよ。翔優は勉強は勝手にやってたし、箏も勝手に練習していた。だから上手くなったと思ってるよ。」 「シュタイセイ、デスね。」 「ああ、主体性、だよ。」 翔優に、『主体性』がある。 学校に行かなかった翔優は、日本ではきっと『主体性がある』なんて認めてもらえなかっただろう。 ランチが出てきて食べ始めた。 思っている以上に口に合った。

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