51 / 94
第52話 街歩き
朝食をとる時間だが、まだ外は夜のように暗くて、日本のような爽やかな朝とはいかない。
天気に左右されない僕には関係ないけれど。
簡単な食事を済ませ、息子のイザークが町案内をしてくれた。
その頃には辺りは明るくなっていた。
「この町は小さなお店が多くて、お店の人も家族のように接してくれマス。」
イザークは日本語が流暢だった。
イザークも妹のエバも、アニメから日本語を勉強したらしい。
通訳がいらないということで、町歩きは獅堂抜きの三人だ。
「ショウユウの演奏、動画で見たよ。素晴らしいネ。」
イザークは笑顔で言った。
「ありがとうございます。みんな熱心に聞いてくれたので、がんばれました。」
翔優は答えた。
「翔優、人としゃべれるようになったんだな。イザークさん、翔優は日本では無口なんだ。ぜひ色々話しかけてほしい。」
「ああ。”ユウベンは銀、チンモクは金”デスね。」
「そうだね。しゃべりすぎる僕より、無口な翔優の方がチャンスを得ているよ。」
イザークは笑った。
都会から離れた町で、テレビでよく見かけるヨーロッパの石畳み、かわいらしいお店が立ち並ぶ。
イザークお気に入りの雑貨店、本屋を巡り、喫茶店に入る。
どのお店も、店主の趣味がよく出ていて、どこに入っても面白い。
店主も総じて愛想がいい。
品物について聞いたり、イザークと店主の世間話に加わる。
イザークは明日のチャリティコンサートのチケットを配っていた。
「こちらのショウユウが演奏するんだよ。」
そう言って、動画を見せる。
見た目から想像できない迫力の演奏にたいがいの人が驚く。
写真を一緒に撮ってくれと頼まれたりもした。
喫茶店でランチをとる。
ランチはイザークのおすすめを頼んだ。
「翔優、日本での半年分くらい人と触れ合ったな。」
「はい。みなさん優しくて、ビックリしました。」
「ショウユウはどうして箏を始めたんデスか?」
「僕は……学校に行ってなくて、勉強を要芽さんが教えてくれました。箏を始めたきっかけも、要芽さんの勧めです。」
「カナメは人を見る目があるんデスね。」
「勉強は教えてないし、箏も勧めてないよ。翔優は勉強は勝手にやってたし、箏も勝手に練習していた。だから上手くなったと思ってるよ。」
「シュタイセイ、デスね。」
「ああ、主体性、だよ。」
翔優に、『主体性』がある。
学校に行かなかった翔優は、日本ではきっと『主体性がある』なんて認めてもらえなかっただろう。
ランチが出てきて食べ始めた。
思っている以上に口に合った。
ともだちにシェアしよう!