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第53話 パーティー

パーティーの翔優は、正装の紋付袴だ。 たくさんの人が翔優の写真を撮り、動画を撮る。 まるでアーティスト扱いだ。 伝統曲、聞きやすい現代曲、翔優の得意な曲の三曲を演奏した。 みんなが知っているポップスを入れないのかと言うと、「こういう場では、伝統そのものの曲が喜ばれるんだ。自分たちの知らない、エキゾチックなものが求められるんだよ。」と、獅堂が言った。 サービスもほどほどに、ということなんだろう。 一曲目は、よくお正月に流れている、厳かな伝統曲だ。 微妙な音の高低、余韻がキレイに会場に響く。 みんな、真剣に聞いている。 曲は徐々に速くなり、厳かさから勢いのある曲調になる。 圧倒される演奏だ。 二曲目は、情緒的な曲で艶めかしい。 主旋律がわかりやすく、ノリやすい。 感情の乏しい翔優が、箏を通すとこんなにも細部まで計算された間をとり、訴える演奏ができるから不思議だ。 三曲目は、技巧の難しい曲だ。 翔優本人は、情緒的な曲より、技巧の細かい曲をかき鳴らすのが好きなので、何時間練習しても、苦でないようだった。 プロを目指したらいいと思うが、その場合三味線もやらなくてはならないらしい。 翔優は三味線は全く興味がない。 翔優は社会制度に受け入れられない運命なんだろう。 緊張のキの字もなく、翔優は演奏をやり遂げた。 拍手喝采。 なのに愛想笑いの一つもしない。 大リーガーや天才棋士ですら笑顔を見せるのに、困った奴だ。 僕はフランス旅行の記録としての撮影係を押し付けられていた。 立場的に僕が撮るべきなのはわかるし、翔優の両親やベルナール家に送ると言われれば必要性も感じるから、やるしかない。 だが、僕は写真自体が嫌いだった。 「その瞬間の繊細な感動を味わう機会を失う」と獅堂に反発したら、「翔優との繊細な感動を味わいたいならしょうがない」と言われた。 そんなわけない。 無駄な抵抗をやめて、撮影係になった。 僕のスマホに、フランスの思い出が増えていく。 翔優の両親に見せるのだから、増えるのはもちろん翔優の写真だ。 改めて見ると、当たり前だが、男らしくなっている。 空港を歩く姿、飛行機内の姿、街歩きの姿。 獅堂やベルナール一家との写真。 獅堂が撮ってくれた僕と翔優の写真もある。 そして、紋付袴で演奏する写真。 翔優は、小5から中2までほとんど社会の接点がなかった。 それがなぜか、今は日本人の代表の一人のようだ。 「わからないものだね。」 つい、独り言を言った。 ―――――――――――― パーティーが終わり、部屋に戻る。 翔優は着替えて、着物をキャリーバッグに詰めた。 おやすみ、と言って互いにベッドに横になる。 しばらくすると、またもそもそと気配がする。 当たり前だが、翔優だ。 確信犯だろう。 だが、面倒で、声もかけずに寝た。 やっぱり、付き添いは坂上に頼めば良かった。

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