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第54話 チャリティコンサート

ベルナール婦人主催のチャリティコンサートは、午前からだ。 チケットをもらった人が来て、わずかな入場料を払う。 例のお店の人たちの顔触れも多かった。 募金箱や、物々交換用の棚や、フリーマーケットもある。 笑顔が溢れていた。 慈善の喜びが当たり前に満ちている。 「ショウユウ、みんな日本の箏に興味があるよ。シンプルで美しい楽器だね。」 イザークが言う。 至るところに細かで煌びやかな装飾が施されるヨーロッパの文化からすれば、確かに日本の侘び寂びに心惹かれるのもわかる。 「箏は、龍に見立てた名前がついています。こちらが龍頭、こちらが龍尾で……。」 と、翔優が楽器の説明をし始めた。 みんな興味深そうに聞いている。 コンサートが始まった。 歌やピアノ。 珍しいところではリュートも出た。 そして、いよいよ翔優の箏だ。 曲はパーティーの時と一緒だが、心なし、軽やかに聞こえた。 ここでも拍手喝采だ。 翔優はお菓子や、ちょっとした小物をプレゼントされていた。 翔優が、微笑んでいた。 ―――――――――――― 夜になり、部屋に帰ってから翔優に聞いた。 「今日のコンサートは、どうだったんだ?」 「はい……。楽しかったです。みんな、喜んでいて。」 「昨日だって、みんな喜んでいたよ。でも、今日の翔優は昨日と違ったように感じた。何か、違いがあるのかい?」 「……パーティーは、ちゃんと演奏しなきゃ、と思っていました。コンサートは、みんなを楽しませたいと思っていました。演奏しか、してないですけど。」 翔優の関心が、”演奏”から、目の前の”人間”に移ったのだ。 「そういう意識が変わって、翔優自身は、楽しめたのかい?」 「……はい。コンサートでは、みなさんと気持ちが通じあっているように感じました。」 「それは、僕も感じたよ。見えない誰かの幸せを願う気持ちは尊いね。僕たちにも、その祈りが降り注いだ気がしたよ。」 僕はいつも、自分の中に冷え冷えとした湖があるように感じていた。 どんなことがあっても、ただそこに波紋が広がるだけで、何も変わらない。 だが、今日、僕は初めて”温かい気持ち”と表現されるようなものを感じた。 ――――――――――――― その日の夜も、翔優は僕のベッドに入ってきた。 どういうつもりか聞くか迷ったが、聞くのはやめた。 聞いたところで、期待に応えることはできないから、聞くだけ無駄だ。 翔優はいつもよりもピッタリと背中にくっ付いてくる。 坂上だったら…… 相手にその気があって、ここがフランスであることをいいことに、手を出すかもしれない。 残念だったな。 僕は女にも男にも性愛を感じない。 自分は、そういう感情がすっぽりと欠けている人間だと、自覚が出て来ていた。

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