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第66話 四人での別荘暮らし
ー 第四章 新生活 ー
那央も橘も、勤務地が決まった。
橘は来年転勤の可能性があるので、那央のアパートに2人で住むということを考えた。
が、宿泊だけならまだしも、住むとなると狭い。
だからといって、広いところを借り直すと、結局来年橘がいなくなったら持て余してしまう……そういう状況だった。
「要芽さんに相談してみようか。ちょうどいい物件があったら、紹介してもらおう」
橘が言った。
♢♢♢
橘が藤波に電話で連絡をすると、藤波は
「一年くらいなら、この別荘で暮らしたらどうだ?部屋はたくさんあるから、ホテルみたいなものだよ」
と言った。
二人の勤務先は郊外にあり、案外辺鄙な藤波別荘の方が近かったのだ。
送迎は翔優がやるという。
至れり尽せりすぎて、逆に心配になる。
「今のそちらの家賃、光熱費、食費を教えてくれれば、それと同じくらいの前提で計算するよ。ざっくりでいいから」
「わかりました。那央とも相談します。いつもありがとうございます」
「莉音のためでもあるが、アキさんへの獅堂の気持ちでもある。ぜひ遠慮なく利用してくれ」
そう言われて、またお礼を言い、橘は電話を切った。
「要芽さんは、別荘で一緒に暮らさないか、って」
橘は那央に言った。
「え!あの立派な別荘に?それはすごいことだけど……。四人の共同生活って、どんな感じなのかな……」
「うん、俺も想像つかない……。でも、想像つかないことを考えてもしょうがないから、一年くらいならお世話になってもいいかな、と思うんだけど」
それもそうだと、那央も別荘住まいを承諾した。
♢♢♢
「そういうわけで、莉音と那央が一緒に住むことになると思う」
藤波は翔優に言った。
「……そうですか……」
翔優は視線を落として答えた。
「まず一年くらいのところらしい。いいじゃないか、たまには人と密に交流するのも」
「……はい……」
「嫌なのか?」
「……その、お二人と暮らすこと自体は構わないのですが……」
「何が嫌なんだ?」
「……その一年だけ……要芽さんと部屋を一緒にしていただけませんか?」
「嫌だ」
要芽は即答した。
「お前と部屋が一緒になってしまったら、毎日カマを掘られてしまう。今ですら毎日押し倒されてるんだ。こっちはたまったもんじゃないよ。」
別荘に来てからというもの、翔優は要芽をソファで押し倒すか、風呂場に侵入するか、寝る前に部屋の前で壁ドンをするかという具合に、行動が大胆になっていた。
要芽は密かに、あの二人が一緒に暮らすようになれば、翔優の性欲から逃れられるのではないかと考えていた。
「……すみません」
「性生活に関しては、翔優の謝罪は形ばかりだからな。まず、彼らと暮らす方向に話が進むと思っていてくれよ」
こうして、四人の同棲生活が始まろうとしていた。
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