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第72話 三人の飲み会

「その……いつからお付き合いしてるんですか?要芽さんと……」 橘が聞いた。 「いわゆる恋人同士ではありません。私が一方的に求めて、要芽さんが渋々応じてるだけで……」 「とはいえ、我慢してやれることじゃないんで、要芽さんも翔優さんが好きだと思いますが……」 「要芽さんは、人を好きにならないし、性欲もないんです。本当に……私が強引に迫るから、させてくれるだけなんです」 「逆にそれ、すごく優しいですね」 那央が言った。 「そうですか? 」 「だって……嫌な人とは絶対したくないから……。翔優さんとできるなら、ただ単にものすごくツンツンなだけなんじゃないですか? 」 「一時期、自分から行かなければ、誘ってくれるかと思ったのですが、それもなくて……」 「どれくらい待ったんですか? 」 「3日です」 「3日……」 那央は絶句した。 3日で”待つ”に入るなんて……。 「ふ、普段は週何回なんですか? 」 「毎日です」 那央は再び絶句した。 そりゃ、藤波さんからいく必要ないよ、と。 相手が橘でも那央は自信が無かった。 これからそうなりそうだけど……。 「毎日……わかりますよ」 橘が神妙な顔でうなずく。 こんなところで共感しないでほしい、と那央は思った。 三人とも食事の手が止まってしまうので、食べてしまってさらに飲みながら話すことになった。 ♢♢♢ あかりを落として、ジャズをかける。 橘がいると一気にバーの雰囲気だ。 ワイン、ウイスキー、ブランデー。 那央にはサワー。 チーズにポテチ、ポッキーにジャーキー。 今日は若者のジャンクな飲み会だ。 L字のソファの角に翔優と橘が座り、橘の横に那央が座った。 「翔優さんは、要芽さんのどこが好きなんですか?」 橘が聞いた。 「私が小学生の頃からお世話になっていて、憧れの人でした。頭が良くて、強くて、堂々としてて……」 「へえ、そんな昔から……。いつ、翔優さんから迫ったんですか?」 「私が中2で、要芽さんは高3でした」 那央はサワーを吹いた。 「は、早すぎませんか?! 」 しかも迫る方って!逆だったら犯罪だ!と、那央は思った。 「……私は幼少期に大人にいたずらされた経験があって、初めてじゃなかったんです。要芽さんは最初断りましたが、私がさせてほしいとお願いしたんです。その時はフェラだけでしたけど……」 那央は気持ちが追いつかなくなり、サワーをごくごくと飲んだ。 「ドラマチックな関係なんですね。要芽さんは……甘えてくれなさそうですけど……」 橘が言った。 「はい、どんな時もあんな感じです」 「お酒に酔ってもですか? 」 「はい、多少機嫌が良くなるだけで、あまり変わりません」 「うーん。何か、要芽さんのフェチとか、好きなプレイは無いですかね……」 「私の拙いテクニックや知識では、わかりません……」 那央はお酒に酔ったのか話に酔ったのかわからないが、顔を真っ赤にしている。 「横になる? 」 橘は那央に膝枕をし、小さなブランケットをかけた。 まもなく、那央は寝息を立て始めた。 橘は那央の頭をなでた。 「こんなことを言うのもなんですが、他の人にも興味を持ったらどうですか?俺と那央が付き合えたのも、実は俺の彼女のおかげなんで……。そこで自分たちの気持ちがはっきりしたのが良かったですね」 「そうなんですね……。でも、そのまま離れた方がいいと思われたら……どうしましょう……」 翔優はウイスキーのグラスを見つめて言った。 「その時は、その時で。翔優さんに変化があれば、要芽さんも何かは変わりますよ」 橘は微笑んで言った。 「あ!でも、那央はダメですよ!絶対やめてくださいよ! 」 橘は、まるでおもちゃを取られたくない子どものように変わった。 今度は翔優が笑った。

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