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第74話 樋野の大恋愛
「俺さぁ、小学校の頃からの幼馴染と付き合ってたの。高学年から付き合って、中学で一回別れて、高校でまた付き合って……。で、俺は調理の専門学校行って、彼女は県外の大学に行って……。そこでまた別れて。26歳の時に彼女が戻ってきたの。で、付き合うんだか付き合ってないんだか……ってなって、いよいよ俺も覚悟決めてプロポーズしようとしたら、”私、結婚するの”って言われて!1年後には子ども生まれてんだよ!あの時期、俺と温泉旅行にも行ったし、エッチもしてましたよねー!っていうさ……」
樋野はウイスキーをあおった。
「樋野さん……色々あったんですね」
橘が優しく背中をなでる。
「そうだよ!いや、俺も悪いよ!甲斐性なしだし、はっきり付き合わなかったし!でも……じゃあ、あのエッチはなんだったのっていう……。え?君たちイケメンはどうなの?付き合ってなくてもできる?できるの? 」
樋野は失恋の痛みを思い出して、若者に絡み始めた。
「俺は、曖昧な関係だったらしないですね。奥手なんで」
橘が言う。
「いや、橘君がそうでもさ!あっちがやる気満々なら、断らないでしょ! 」
「いやあ……あまりそっちは自信がないので……。自分は、女性相手だと緊張しちゃって、いい思い出がないんです」
「本当にぃ?絶対ウソでしょ!いいよ、そんな慰めかたぁ……」
樋野はいつの間にかハイボールをあおっていた。
「先輩が女性といい思い出がないのは本当ですよ。クリスマスイブに、街中で頬を叩かれて振られましたから」
那央が言った。
「ホ、ホント??え?何で?そんなの浮気くらいしないとならなくない? 」
「ええ……まあ、ちょっと気持ちが揺らいでいたのを見抜かれていたみたいで……。だから、自分は器用に女の子と遊べるタイプじゃないんです。一途なのが一番幸せですね」
そう言って、橘は那央を見た。
那央はパッと顔を赤らめた。
やっぱりコイツらデキてる……。
「翔優君は?女の子に迫られたらどうするの? 」
「私は、そんな状況にならないと思いますし、きっぱり断りますね」
翔優の答えに、全員納得した。
翔優は、女子からしたらとっかかりがなく、ハードルが高い。
「翔優君はさ、人を好きになったらどうなるの?あんま想像つかないけど……」
「尽くしたいです」
橘と那央は納得した。
公私混同が甚だしい、公式のストーカーみたいなものだ。
「へぇ。翔優君な美人に尽くされたら、幸せだね。那央君は……あんまり女の子と一緒にいるイメージが無いのはなんでだろう……」
「え!なんですか、それ!モテなさそうってことですか……?? 」
「いや、なんか、広くファンを集めるよりは、那央君の優しさに惹かれるような、ちゃんとした人に好かれそう。もとから拗れなさそうだなって……」
「ああ、まあ、そうかもしれません……」
元カノを思い出して、那央は納得した。
「那央は優しいんで」
橘はそう言って、那央の頭やあごを撫でる。
猫かっ!
樋野は叫びそうになった。
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