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第78話 二次会

ソファに移動して、二次会が始まる。 一次会のビールから、ハイボールにうつった。 藤波はウイスキー、橘と那央はサワー、翔優は引き続きビールだった。 藤波は聞き上手な上に、酒を勧めるのもうまく、さらに橘が待つことなく酒を出してくれるので、樋野はベロベロになった。 樋野は彼女の話から今の閉塞的な生活への不満まで全部話した。 「藤波しゃん!話を聞いてくれてありがとうごじゃいます!俺はこんな気のいい若者たちと出会えて幸しぇです! 」 そう言って、樋野は藤波に抱きついた。 「はは。わかりますよ。30歳を超えると、選択肢がグッと減るように感じますからね」 藤波が背中をなでてくれる。 もう、好きになりそう…… 樋野は藤波にすりすりしながら思った。 ♢♢♢ 二回目の竜宮城だ。 もう、ヤバい契約書にうっかりサインしててもおかしくないくらい心が浮ついている。 翔優にまた肩を貸してもらい、部屋に行く。 ゆっくり寝かされた。 「翔優君……ありがとうね……今日もすごく楽しかったよ……」 今日は……キスしてくれるんだろうか…… 無理だよね、藤波さんがいるもん。 「俺……翔優君とお店やるの、楽しみなんだ……。今日は口約束だけど、本当に叶ったら、嬉しいな……」 二次会では、経営についても翔優に教えてほしいと言われた。 藤波はおいおい翔優に店を持たせたいのかもしれない。 パン屋の経営ではちょっと違うだろうから、知り合いのうまくやっている人に連絡をとってみようかと思った。 翔優は、ベッドの縁に腰掛けて、じっと何かを考えているようだった。 物憂げな翔優も絵になる。 「藤波さんのことが……好きなんだよね? 」 「はい」 ためらうことなく返事がされた。 「お店の話が本格的になったら、さすがに使用人との両立は、難しいよね」 「はい」 「……翔優君は……ずっと使用人はやりたいの? 」 「はい。要芽さんのそばから離れたくありません」 好きなら……そうだよね。 でも、あの藤波の言い方だと、若い翔優を使用人のままにさせとくわけにはいかない……と考えている感じがした。 「翔優君が女の子ならさ、結婚してもらえば話は早かったよね。奥さんに店持たせるとか、よくある話じゃん」 「…………………………」 まあ、言ってもしょうがないことだよな…… 「恋人じゃ……ないんだよね? 」 「はい。体の関係はありますが」 「え、そうなの? 」 それって……使用人に奉仕さるっていう憧れの……尓ゃなくて、立場を利用した非常にけしからん関係ってこと?! 「私が一方的に好きなので……性欲をぶつけてしまうんです。それを要芽さんが許してくれてるだけで」 「……それ……すごい話だね……」 「え……」 「いや、男同士で藤波さんがスマートな感じだからわかりづらいけどさ、藤波さんが女主人だと仮定してみてよ!まず翔優君は好きな人のそばにいれてハッピーじゃん。しかもお店までもたせてくれそうで、さらには抱いていいなんて!結婚だけができないだけで、正直、藤波さんは全部翔優君に捧げてるじゃん! 」 翔優は驚いたような顔をしている。 「それって……”愛”だよね……」 なぜか俺は感動していた。 「藤波さんはさ、親のような、恋人のような、複雑な気持ちなんだと思うよ。だから、最大限、翔優くんのことを考えているんだと思う」 「そう……なんでしょうか……。私は……要芽さんが、私を自立させて追い出そうとしているんじゃないかと……」 「追い出すならさ、クビにすればいいだけじゃん。せめて通いにするとかさ。一緒に住んで、体の関係もあって、それは無いと思うよ」 「……そう……なんですかね……」 翔優は無表情で床を見つめていた。

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