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第11話 刺客 ①

僕が宮殿に来てから10日がたった。  僕よ生活は相変わらず部屋の中にいて、会えるのはクロエと、たまにクロエと一緒に来る使用人の人だけ。  その使用人も同じ人ではなく、バラバラ。クロエはいい人だし、とても大好きだけど、部屋にずっといると、色んな人と話をしたくなるときもある。  それでも僕は人質。毎日食事を頂けて、清潔な部屋で生活できるだけでも感謝しないといけない。  でも……。  そんな日を過ごしていると、 ートントントンー  ドアを叩く音がした。 「はい」  ドアを開けずに返事をする。 「殿下からのことずけをお預かりしました」  男の人の声がした。クロエはお茶の用意をしに、部屋を出ていて、部屋の中には僕1人。 「クロエと一緒?」 「緊急のことでして、クロエ様は一緒ではないのですが内密に書面でことづかっています」  男の人が声を潜めた。殿下からの伝言。しかも緊急で内密なのこと。  殿下からのことずけを預かっている使用人の姿を、誰かに見られてはいけない。 「わかりました。すぐに開けます」  ガチャリとドアを開けると、銀色のトレイを持った使用人が立っていた。 「こちらでございます」 「ありがとう」  僕が使用人に近づき、トレイに乗った封筒を取ろうとした時、手紙を持ってきた使用人にグイッと手を引っ張られ、首に鋭い短剣を突きつけられる。 「ひぃっ!」  咄嗟に小さな声が出た。 「静かにしろ!そうすれば命は助けてやる。黙って俺について来い」  使用人の服を着た不審者が僕の背後に回り、背中に短剣を突きつける。  僕は声を出さずに頷くと、 「さあ、歩け」   背後に当たる短剣が、少し服に刺さった。  冷や汗が流れる。  僕はまた頷くと歩き出す。  助けを呼びたいけど、声は出せない。  視線で助けを求めたいけど、誰も廊下を通らない。  僕は一体どこに連れて行かれるの?何をされるの?  部屋から直線の廊下を歩き、角を曲がると遠くに陛下とヒューゴ様の姿が見えた。  陛下!ヒューゴ様!  心の中で叫ぶと、殿下と目が合った。 「おい待て」  殿下と視線がぶつかった。  よかった!殿下、どうか気付いて!  僕がより強く心の中で願うと、殿下が鋭い視線で僕と不審者を睨み、僕たちの前にやってくる。 「ユベール、俺は部屋から出る許可は出してないが、どうして部屋から出ている」 「それは……」  僕はチラリと後ろで短剣を突きつけている使用人を見て、殿下に目配せした。 「おいお前、どうしてユベールといる?それに見たことのない顔だな。名を名乗れ」  殿下がそう言った途端、不審者は僕を後ろからはがいじめにし、喉ものに短剣の先を当てる。短剣が刺さったところから、ツーっと血が流れた。 「そこを退け!さもないと……」  不審者が何か言いかけた時、 「ユベール、目を瞑れ」  え?  なにもかも瞬時に凍らせてしまいそうなほど、冷たい殿下の声がして急いで目を瞑る。  ずぶりと何かが何かに突き刺さる気配がし、その後背後から「うぐっ!」と今まで聞いたことのない声がした。  僕をはがいじめにしていた腕がずるりと抜ける。そして腕がずり落ちると同時に何かが引き抜かれる気配がし、生暖かいどろりと粘り気のある液体が体に降りかかる。  目を開けると僕の体は血だらけで、足元に視線を落とすと、先ほどまで僕をはがいじめしていた不審者が倒れ、その下には血溜まりがどんどん広がる。 「!!」  一瞬、目に映し出された映像が理解できなかった。が、ぴくりとも動かない男を見ると彼が絶命し、僕の体にかかった血が彼のものだということがわかった。  声が出ず腰が抜け倒れこみそうになった僕を、ヒューゴ様が支えてくれる。 「お怪我はありませんか?」   返り血を浴びドロドロになった僕を、ヒューゴ様が怪我がないかと確認してくれる。  僕は声が出ず、大きく頷くことができなかった。 「よかった……」  ヒューゴ様は安心した表情を浮かべ、胸を撫で下ろす。  ヒューゴ様と殿下を見ると、殿下は怒りに満ちた表情で僕を睨みつけ、 「あれほど部屋の中にいろと言ったのに、俺の言うことが聞けないのか!? 今まで何人の刺客に狙われていたのか、お前はわかっているのか!?」  廊下中に響き渡るほどの大きな声で殿下は怒鳴り、僕の肩を掴み壁に体を押し当てる。

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