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第12話 刺客 ②

 何人もの刺客に襲われてた?  僕が?  狙われてたなんて、見覚えがない。  もしかして誰かが刺客から、僕を守ってくれてたってこと? 「俺が見つけなければ、どこかに連れて行かれて殺されていたかもしれないんだぞ!」  目の前で殿下に怒鳴られ、自分がしてしまったことの愚かさと、殿下の逆鱗に触れてしまったことで震えが止まらない。  僕はこの男と同じように殺されてしまうのだろうか……。  恐怖で身がすくむ。 「これからは何があっても部屋から出るな。俺とクロエとヒューゴ以外と話すな。お前はただ黙って俺のいう通りにしていろ! わかったか!」  僕を押さえつけていた腕の力をさらに入れ、僕の体を床に投げつけると、殿下は大股で僕の前から去っていく。 「アレク様!ユベール様になんてことを!」  ヒューゴ様は大股で遠ざかっていく殿下の背中に叫びながら、僕を立たせてくれる。 「お部屋までお送りいたします。ご無礼、お許しください。アレク様はユベール様をお守りしたい。その一心なのです」  そういうと、ヒューゴ様は肩からかけていたストールを外し僕を包み込み、ひょいと僕の体を抱き上げる。見上げると、ヒューゴ様の服は僕の体についた血で汚れているのに、優しく微笑む。  殿下が僕を守りたい一心?  それってどういう意味?  殿下は僕のことが目障りで、鬱陶しいのではないの?  邪魔者ではないの?  もう頭の中がぐちゃぐちゃだ。  ヒューゴ様は僕を部屋に連れて行ってくれると、そっとベッドのヘリに座らせてくれる。  クロエが血相を変えて部屋に入ってくると、 「湯とお茶の用意を」  と告げた。 「ごめんなさい、ごめんなさい」  もう全部に対して謝りたかった。  殿下の言いつけを守らず、誰かわからない人を部屋に入れてしまったこと。  言いつけを守らず、部屋から出てしまったこと。  廊下で見かけた殿下に、心の中で助けを求めてしまったこと。  殿下の手を煩わせてしまったこと。  ヒューゴ様の手を煩わせてしまったこと……。 「ごめんなさい……ごめんなさい……」  謝りながら、何に対してなのかわからない震えが止まらない。 「大丈夫ですよ」  ヒューゴ様は僕の目を見つめながら床に跪く。そして僕の震える両手を握り締めた。 「ユベール様は何も悪くありません。悪いのはユベール様を守れなかった、私も(わたくし)たちです」  ヒューゴ様達が悪いはずはない。僕は首を振った。 「いいえ、私たちのせいなんです」  クロエが用意してくれたハーブティを、ヒューゴ様が手渡してくれる。  もう安全なはずなのに震えが止まらず、ソーサーとカップが擦れる音がし、ハーブティの水面が揺れる。 「このハーブティは気持ちを落ち着かせてくれます。これを飲まれてから、湯船につかってください。入浴中は、私が外で護衛しますので、どうぞ安心していてください」  僕は働かない頭で何度も頷き、言われるがままお茶を飲んだ。    返り血を流すために、湯船はすぐに赤く染まり入浴は長かった。  クロエが綺麗に洗ってくれるのを、僕はただじっと見ていることしかできなかった。  何事もなかったかのように、返り血でドロドロになっていた髪や体は綺麗に洗われていく。  それでも自分の体から放たれていた鉄のような、あの血なまぐさい臭いが、鼻の奥にの凝っている。  あれが夢であればいいのに……。  そう思うが、鏡に映った自分の首に、先ほど短剣を突きつけられ流血した箇所が、手当てされていた。  どんなに思いたくなくても、あれは現実で夢ではない。  クロエに手を引かれるまま、ベッドの中に入ったが、目を瞑れば先ほどの惨状が瞼の裏に映し出される。  結局、僕は一睡もできないまま、朝を迎えた。  僕がここで生きていく方法。ここでは息を殺し、死んだように生きていくことが、僕の生きる道。孤児院を守る方法だち、僕は肝に銘じた。

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