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第28話 決意 ⑩

 クロエがいなくなり、ガゼボの中には僕とヒューゴ様。  ヒューゴ様は僕のことを気遣ってか、何も話しかけてこられない。  僕は僕で何を話しかけたらいいのかわからず、ただ静かな時間が過ぎていった。  花の香りと爽やかな風。クロエが淹れてくれていたハーブティーが心を落ち着かせてくれる。  つい3ヶ月まの今頃。僕は殿下に謁見し、殺されるかもと怯えていた。  あの時の僕は今の自分の姿を想像できただろうか?  殿下はどんなお考えで、僕に何を望まれているんだろう?  殿下が求めている言葉や行動なのか手探りで緊張するけど、色々な殿下にも会ってみたい。  パラリとページをめくりながら、これからの自分の行動を考えていると、 「ここは子どものくるところじゃない」  ヒューゴ様が誰かに話す声がした。  誰だろう?  何気なく後を振り返ると、ヒューゴ様のそばに本を持った6歳ぐらいの男の子が立っていた。 「どうして? 僕、毎日ここでご本よんでるけど、だれもダメだって言わないよ」 「いつもはいいかもしれないが、今はダメだ」 「どうして?」  この男の子はヒューゴ様が殿下の執事という立場だということを知らなのかもしれない。  もし知っていたらヒューゴ様のいうことを素直にきくと思う。  だけど男の子はヒューゴ様のいうことが、本当にわからないというように不思議そうに首を傾げる。 「今はユベール様がお使いになっている。ここでの読書はまた今度にしなさい」  ヒューゴ様がそういうのに、 「え~今読みたい」  男の子は駄々をこねる。 「だから今はダメだと言っている」 「でも読みたいもん」  ヒューゴ様がどういっても、男の子はどうしてもここで読みたいみたいだし、ヒューゴ様は男の子の対応に困っているみたい。  もしかして、なんでも完璧にこなすヒューゴ様なのに、子ども相手は苦手なのかな?  そう思うと急にヒューゴ様が可愛く見えてきて、ふふふと笑ってしまった。 「ユベール様、笑い事ではありません……」  多分ヒューゴ様は僕がどうして笑ってしまったのか、わかったのか眉が八の字になった。 「お兄ちゃんがユベール、様?」  本を胸に抱えたまま、トトトと男の子が駆け寄ってくる。 「うん、僕がユベール。君は?」 「ぼく、カイト、6歳」  そういいながらカイト君はテーブルの上に持っていた本を置き、ヨイショヨイショと先ほどまでクロエが座っていた椅子を、僕の隣に移動さようとする。 「おい、勝手にユベール様のおそばに寄るんじゃない」  ヒューゴ様がカイト君を捕まえようとするけど、カイト君はヒューゴ様の手をするりとすり抜ける。 「こら。待ちなさい」 「いやだよ~」  ヒューゴ様はまたカイト君を捕まえようとするが、また逃げられる。  あのヒューゴ様が6歳の男の子に振り回れているのを見て、笑ってはいけないとわかっているけど、どうしても口角が上がってしまう。 「笑い事ではありません」 「だって……あははは」  ますます困った顔のヒューゴ様を見ていると、どうしても我慢できずに吹き出してしまった。 「ユベール様!」 「ごめんなさい。ヒューゴ様があまりにも可愛く」 「私が可愛い……?怖がられることはありますが、可愛いと言われたのは、はじめてです」  ヒューゴ様は僕の言葉が理解不能だというように、目をぱちくりさせる。 「僕はカイト君と一緒にいるのは構いませんよ」 「しかし……」 「それに僕もカイト君と話がしたいです」  僕のそばにはいつもクロエがいてくれて、寂しい思いはしていない。  でも他の人とも話をしたい。  特にカイト君の年頃の子の様子を見ていると、孤児院の子どもたちのことを思い出して懐かしい。 「ダメです……か?」 「ユベール様がしたいことにダメなことなんて、ありません」  ヒューゴ様は僕に微笑みかけてから、 「ゆべーる様にご迷惑をおかけしないように」  カイト君に釘を刺し、僕の隣にカイト君が座れるように椅子を移動させた。

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