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第30話 決意 12

 死が目の前に近づき、体が震え奥歯同士がガチガチとあたる。 「わかった」  殿下の低い声が静かにし、ヒューゴ様の頭上の高くに振り上げられた。  父様、母様、兄様、姉様!力を貸して!  お願い!声よ出て!  体の奥深くに込めた力を、全身の力で爆発させる。 「ダ……ダメッ!」  声が出た。一瞬遅れて、弾けるように体が動く。  今だ!  頭を下げたまま跪いているヒューゴ様の背中に、覆い被さる。  声が出た!体が動いた!  できる!今の僕ならできる! 「僕です!全部、僕が決めて、僕が外に出たんです!クロエもヒューゴ様もここにいるみんな、誰も悪くないんです!全部、全部、僕自身が決めたことなんです!」  力の限り叫んだ。  また、いつ声が出なくなるかわからない。  そうなる前に、言っておかないといけないことは 全部言っておく。 「殿下、どうか僕だけに処分を」  目を大きく見開き僕を見上げるヒューゴ様の前に出て、今度は僕が殿下の前で跪き頭を下げた。 「ユベール。お前は俺との約束を破った。しかも俺がいない間にだ」  頭上から怒りに満ちた殿下の声が、僕の体に突き刺さる。 「はい」 「殺されかけたのも、忘れたわけではないだろうな」 「はい」  どんな処罰が下されるか、恐ろしくて仕方ない。  目の前の死。  本当は今すぐ立ち上がり、逃げ出したい。  閉じ込められ続ける生活にも、いつ殺されるかわからないこの環境も、もう何もかも嫌だ。  このままでは誰かに殺される前に、僕の心が死んでしまう。  何もかも放っておいてこの場から消えてしまいたい。  でも僕は僕の意思で決めた。  外に出ることを。自分の意思を通すことを。  だから受け止めるしかないんだ。  もっと何も考えられなくなるかと思っていたけれど、自分でも驚くほど頭がクリアになった。  視線の先にある殿下の靴の先をじっと見た。 「俺がどんな気持ちで言っているのか、どうしてわかってくれないんだ……」  さっきまで怒りに満ちた殿下の声だったのに、次は悲しみが満ち消え入るような声がした。  え?  見上げると、悔しそうにした下唇を噛み、瞳は悲しみに揺れている。  あんなに冷たく今にもヒューゴ様を斬りつけようとしていた殿下に、何があったの? 「どうして静かに暮らしていてくれない? 俺はお前を守りたいだけなのに……」  心の奥底にしまい込んでいた言葉たちを吐き出すように、殿下はいう。 「殿……下?」 「……」  呼びかけても返事がない。 「アレキサンドロス……様?」 「……」  殿下の目は僕を通り越して、何かを見ているようだ。 「アレク……様?」 「!!」  僕が殿下の名前を呼ぶと、殿下はハッと目を大きく見開き我にに返ったように、いつの冷たい視線に戻る。 「今回の処罰は後で告げる。部屋で大人しくしているんだ。ユベール、次はないと思え。ヒューゴ行くぞ」  殿下は踵を返し、僕たちの前から去っていった。 「ユベール様!」  殿下の姿が見えなくなった。  殿下の姿が完全に視界から消えると、その場にいた全員、脱力しその場に座り込んだ。

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