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第34話 慈善事業 ④
『教会の子ども達は元気にしているか?
ユベールは元気ではない。
守りたくて部屋に閉じ込めたせいで、あの明るいユベールから笑顔が消えてしまった。
宮殿に来てから、ユベールはいつも怯えている。
私は人に優しくするとは、どうすればいいかわからない。
先日、せっかくユベールが自分の意思で動き出したのに、私はそれを罰してしまった。
私は帝都を離れるわけにはいかない。
そこで牧師。ユベールの笑顔が戻るまで、しばらくユベールを預かってもらえないだろうか?
ユベールに安心して過ごせる場所を作ってやってほしい。
護衛の者と侍女をつける。
腕のたつ2人だから危険はないと思うが、何が異変があれば、すぐに知らせてほしい。
よろしく頼む。
ーアレキサンドロスー 』
まさか殿下がそんなことを、考えてくださっていたなんて。
顔を上げて牧師様を見る。
「殿下はとても不器用でいらっしゃいますが、いつもユベール様のことを考えておいでです」
「……」
「殿下は孤児院の子ども達のことも気にかけてくださり、読み書きができるようにと、たくさんの本を寄贈してくださる方です。新しくしてくださった孤児院にも、いつでもユベール様がいつでも帰ってこられるよに、ユベール様のお部屋も作られました。安心してください。殿下はユベール様をとても大切に思っておられますよ」
「殿下がそんなことを……」
知らなかった。
殿下が僕のために、そんなことをしてくださってたなんて。
気持ちを砕いてくださっていたなんて。
知らなかった。
本当に?
本当に知らなかった?
そうじゃない。
僕は殿下の噂を鵜呑みして、初めから殿下を色眼鏡で見ていた。
勝手に殿下は『冷酷で非道な方』だと決めつけていた。
本当の殿下を見ようとしていなかった。
「殿下、ごめんなさい……」
自然と声に出していた。
「今のお気持ちを、殿下にお伝えなさってはいかがですか?きっと殿下も安心されると思いますよ」
牧師様は微笑んだ。
「はい!」
僕に迷いはなかった。
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