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第35話 慈善事業 ⑤

ーーー  孤児院に来たばかりなのに、もう僕は早く殿下の元に帰りたい。  でもそれだと慈善事業を、何もせずに帰ってしまうことになる。  それは殿下との約束を守らないことに、なってしまう。  どうしようか……。  考えていると、 「ユベール様じゃないかい」  いつも孤児院のことを気にかけてくれていた、隣のアリアさんがやってきた。 ーお久しぶりですー  そう言おうとしたのに、 「大きくなって~」  ふくよかな胸に抱きしめられる。 「意地悪はされてないかい? ご飯は食べてる?」  僕の体に異変はないか、あちらこちら見ながら確認している。 「大丈夫です。とても大切にしていただいています」  そういうと、 「本当かい? じゃあどうして孤児院に帰ってきたんだい? あ! そうだ! 何か粗相(そそう)をしてしまって、命からがら逃げてきたんじゃないかい?」  アリアさんは僕の近くにいたヒューゴ様を見つけると、敵視するように睨む。 「違うよ。僕の元気がないからって、殿下が僕を里帰りさせてくださったんだよ。殿下は不器用で言葉足らずだけれど、本当はお優しい方なんだ」  今の僕ならわかる。  どうして殿下が僕に厳しくされたのか?  部屋から出るなと言われたのか?  僕が部屋のドアから落ちてしまったとき、あんなに血相を変えて助けてくださったのか。  殿下はいつでも、僕のことを守ろうとしてくださっていた。  僕のことを大切にしてくださっていた。  殿下。あなたは本当に不器用な方ですね。  ふと笑みが溢れた。 「でもそれはユベール様が騙されているだけなんじゃないかい?」  アリアさんはまだ信じてくれない。 「違います。殿下は……」  反論しようとすると、 「殿下はとてもお優しくて、素敵な方です」  後ろからクロエが飛び出してきた。 「あんたはどうして殿下が素敵な方だと、そんなことが言えるんだい? ユベール様を騙すために、殿下に言わされてるのかい?」  アリアさんも譲らない。 「違います。殿下はユベール様が落ち詰めるように、清潔で読書をしながらゆっくりできる部屋を用意されました。ドレスだって食事だって、ユベール様が寂しくないようにと、故郷を思い出せるものを用意されてましたし、ユベール様のお部屋に飾る花は、全て殿下が毎朝早くに積まれていたんです」 「え? 殿下がそんなことを?」  アリアさんが反応する前に、僕が聞き返した。  するとクロエは『しまった……』と言うように、両手で口を塞ぐ。 「ねぇクロエ。それ本当?」 「……」 「クロエってば!」  少し怒ったそぶりを見せると、 「は……はい……」  消え入りそうな声で返事をする。 「僕が『誰からの贈り物?』って聞いた時、『知らないんです』って言ってたけど、その時にはもう、殿下からの贈り物だと知っていたの?」 「はい……。殿下から直接お預かりしましたし……」  「も~どうして教えてくれなかったの?」 「だって、殿下が言うなって……」 「だからって……。も~!」  言ってくれてたら、殿下に対して誤解なんてしなかった! 「今度からは、ちゃんと教えてね」 「は~い」  反省したのか、していないのかわからない返事が返ってきた。 「アハハハハ!」   僕とクロエの話を聞いていたアリアさんが大きな口を開けて、豪快に笑う。 「殿下は不器用だけど優しそうだし、こんなに面白いクロエ(友達)もできて、ユベール様、ずいぶん楽しそうな暮らしじゃないか。安心したよ」  アリアさんは僕のことを心配してくれてたんだ。 「ありがとう、アリアさん」 「ユベール様は私の子どもと同じだからね」  抱きしめられ、またふくよかな胸の中に抱きしめられた。

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