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第61話 マティアス ①

 皇帝陛下からの命がくだり、城内は慌ただしくなった。  アレク様が中心となり、調査方法、内通者の安否確認、戦に向けての作戦会議。  毎日僕の元にやってきてくれていたアレク様だっけど、『しばらくそちらに行けそうにない。すまない』と書かれた手紙をヒューゴが手紙を届けに来てくれた。  毎日会えていたのに、今日は会えないと思うとやはり寂しい。  それに先ほど皇后様が僕のことを、平民出身で踊り子だったアレク様の母親と、雰囲気が似ていると言っていたことがずっと引っ掛かっていて、どう言う意味なのか訊きたい。  アレク様が忙しいなら、自分から会いに行きたいけど、そんなことをしてアレク様の邪魔をしてしまうのは目に見えていていくことはできない。 「はぁ~」  部屋に手紙を届けに来てくれたヒューゴ様のためのお茶を淹れながら、無意識に大きなため息が出てしまった。 「やはりお寂しいですか?」  お茶を淹れる僕の手伝いをしながら、ヒューゴ様が訊いた。 「はい、毎日アレク様が来てくださっていたので、会えないと思うと寂しいです。でもこれからはアレク様と会えない日があるのも慣れていかないといけないんですね」  お茶が入ったので、ヒューゴ様の前にカップを置いた。 「今回の現地調査はいったいどれぐらいの期間で終わるのでしょうか?」 「正確な日数はお答えできませんが、慎重に調査されるようなので半月ほどかと」 「半月もですか!?」 「もし戦さになれば、月単位だと思われます」 「そうですか……」  調査だけなら命の心配はいらない。   でも戦さになれば、命の危険も伴う。 「あの、僕もついていくことはできないでしょうか?」  ダメだと言われるのは目に見えていけど、言わずにはいられなかった。 「お気持ちはわかります。でもユベール様は殿下の第一側室です。そのことで敵国に捉えられ人質になる可能性は高く、殿下は自分の思い通りに身動きが取れなくなってしまいます。あえて厳しい言い方をさせていただきますと、ユベール様の存在が足手纏いになってしまう可能性が高くなります」  僕も何かアレク様の役に立ちたい。  でも武術に長けているわけでもないし、素晴らしい戦略がたてられるわけでもない。  ヒューゴ様の言葉は厳しいが、それが現実。 「そうですね。すみません……」  自分の力量のなさに項垂れていると、 「こそまではっきり言ってしまっては、可哀想ではないですか?」  声の方を見ると、そこには第二王子のマティアス様が立っていた。 「ユベール様、きちんとご挨拶できておらず申し訳ございません。私は第二王子のマティアスと言います」  そう言いながら、マティアス様は僕の手をとり甲に口付けをする。  急に手の甲に口付けをされて、僕は顔を真っ赤にしながらすぐさま手を引いた。 「こちらこそご挨拶が遅れてしまい、申し訳ございません。ユベールと申します」  ハンナ先生に習ったように流れるようなお辞儀をして挨拶をしようとするが、先ほどのことで同様し、行動がぎこちない。 「あはは、ユベール様は噂通り、とても可愛いお方ですね」  マティアス様がもうもう一度、僕の手をとり甲にキスをしようとすると、ヒューゴ様がマティアス様の手を握り睨む。 「ご冗談がすぎます」 「何もしないよ。相変わらずヒューゴは堅苦しいね」  マティアス様はヒューゴ様の手を振り払った。 「マティアス様、会議には出られなくてよろしんですか? 殿下はこのことをご存知で?」  いつもは温厚なヒューゴ様なのに、マティアス様がここに現れたことに対して、明らかに不快感を表している。 「会議は俺がいなくても進んでいくから大丈夫。それに僕がユベール様の元に伺うのに、アレク兄さんの許可がいるの?初めて聞いたんだけど」  マティアス様は笑顔で返すが、ヒューゴ様に対して不快感は雰囲気でわかる。 「ユベール様は俺と会うのは嫌?」  なのにマティアス様は僕に対しては笑顔で話しかける。 「嫌なんて、そんな滅相もないです」 「じゃあ嬉しい?」  正直、マティアス様の雰囲気はどことなく闇があって近寄りがたい。  でも敵意を向けられたり、嫌がらせをされたわけでもないので、拒否はできない。 「……はい……」 「それはよかった。実は庭園の中に、俺が小さい頃から大切に育てている薔薇の道があって、今日はそこにユベール様をご招待したくて。どうですか?一緒に来てくださいませんか?」 「え?」  一瞬、一緒に行くことをためらったが、断る理由がない。  「ユベール様、必ず行かないといけない訳ではありませんよ」  ヒューゴ様が言うと、 「君には聞いてない。黙っててもらえる?」  マティアス様は冷たい視線と、冷たい言葉をヒューゴ様に向ける。 「ユベール様はどうされますか?」  先ほどヒューゴに見せた冷たい表情は初めからなかったかのように、僕に対しては笑みを浮かべた。   マティアス様とは今日会ったばかり。  それにこの短い時間に人に対しての接し方が待ったく違うのを目の当たりしてしまうと、怖い感じもする。  本当は断りたいけど……。 「ご一緒したいです」  笑顔で答えた。  するとマティアス様は満面の笑みを浮かべ、右腕を腰にあて、僕がマティアス様と腕を組めるようにされる。腕を組むか迷ったけど、そこまでされて組まないのは失礼にあたると、僕はマティアス様と腕を組む。 「ではユベール様、参りましょう。あ、きちんとユベール様をお部屋までお送りするので、ヒューゴもクロエも付き添いは不要だよ」  ちらりとヒューゴ様とクロエを横目で見ると、不敵な笑みをこぼしながら、マティアス様は僕を庭の奥へと連れて行った。

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