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第7話-2

 だからつい……酔った勢いで襲ってしまった。  しかも倉沢は僕の事が大好きだと言ってくれたのだ。たとえあの言葉が酔ったうえでの戯言だったとしても僕が暴走するきっかけになった。それほど嬉しかったのだ。  しかし悲しいかな。翌朝倉沢は僕との一夜の事を覚えてなかった。 「終わった。もぉダメだっ。失恋しちまった」  悲観のまま仕事に戻ると辞令がおりていた。これで直属の担当になれた……とメンバーを見て息が止まった。なんと倉沢も一緒だったのだ。つまりあの研修で参加者のふるいをかけたのだ。これはなんとしても汚名挽回しなければ!僕は気を引き締めてこれ以上嫌われないように努めようとした。  打てば響くとはこのことか。倉沢は流石にリーダーに選ばれる事がある。僕が提案した企画の問題点をすぐに指摘してくれる。自分じゃなかなか気づかなかった詳細の改善点もしてくれた。身体だけじゃなくすべてにおいて相性がいい!どうにかこのまま一緒にいれる方法はないだろうか。  そう悩んでいると倉沢が些細なミスをおかし、上司からもっと二人の親睦を深めるようにと同居を言い渡される。こんなにラッキーでいいんだろうかと喜び勇んだ。だが、倉沢の顔は真っ青だった。  僕はなんて自分勝手なんだ。倉沢からしたら自分を犯した男と同居なんて嫌に違いない。  なるべく邪魔にならないように心に決めた。忙しい倉沢は食事を抜かし気味らしい。ではせめて栄養管理ぐらいはさせて欲しい。この時こそ料理が趣味で良かったと感じた。  なのに倉沢はこんな僕を許してくれたのだ。一緒に飯を食べてくれと言われて泣きそうになった。  僕が作った味噌汁を美味そうに飲む倉沢の唇から目が離せない。目が合うと美味いぞと微笑みながら言ってくれる。  くそっ。好きだ!この笑顔が見れるならこのまま友人でもいい。  こうして二人で過ごす穏やかな日常に僕は幸せを感じていた。 「もういいでしょ?だって仲いいじゃないですか。気心知れたでしょ?もういい加減に倉沢さんを離してあげてくださいよ~」  慰労会で若手の後輩に噛みつかれた。こいつは確か早瀬とかいうやつだ。日頃から僕を目の敵にしてベタベタと倉沢にまとわりついてる奴だ。なんでお前が倉沢の腰に抱きついてるんだ? 「倉沢さんの事を狙ってるんじゃないんですか?」  早瀬が挑発的に笑う。この目!コイツ、倉沢の事を狙ってやがるんじゃないのか?思わず殴りかかってしまうところだった。 「やめろっ!お前ら飲みすぎだ!いいかげんにしろってんだ!」  呆れたように倉沢に怒鳴られ頭が真っ白になった。まさか?出ていくのか?せっかくの二人の城だったのに。  僕はあせって倉沢の後を追った。  こんなにも心乱されるなんて思ってもみなかった。いつの間にか倉沢が自分の中で大部分を占めていた。なんとしても捕まえておきたい。  日々の態度からも倉沢が僕を嫌ってるわけではないと感じられる、ならば身体から堕としてしまおうか。僕はズルい男なのかもしれない。  でも。それでも……。ダメならその時は綺麗に身を引こう。

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