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第8話-1 スパダリなのか?
目覚めると安住の顔が目の前にあった。とろけるような笑顔で迎えてくれる。
「おはよう」
「おはよう」
なんだこの朝チュンなシチュエーションは?。恥ずかしいんだが。
「今朝は胃に優しいあわび粥にしたんだ。起きられる?」
「おう。食べる」
ニコニコと嬉しそうに俺を食卓まで連れていくと、粥にすり胡麻や少量のごま油を垂らす。
「良い香りだな」
途端に食欲が湧く。喉ごしのいい粥はあっという間に腹に収まった。
「倉沢は僕が何を作っても美味そうに食べてくれるから作り甲斐があるよ」
「だってお前の作る料理は旨いじゃないか」
「そ、そうか。嬉しいな」
照れた顔がまた可愛い。なんだこの感情は?
「倉沢。昨日の、ココを出ていくとかいう話だけど。もう少し先伸ばしにしないか?」
「そういえばそうだった。昨日は考えがまとまらなくてあんなふうに言ったが、すぐに出ていく気はないよ。住む場所も決まってないしさ。ただ、プロジェクトを成功させるためには不協和音を起こす要因は減らしていかないといけないと思っているんだ」
「アイツ早瀬って言ったか?倉沢のプライベートにまで口を出すなんて!何か魂胆があるんじゃないか?」
「早瀬は直情型なんだ。酔っていただけだろう?」
「いや、アイツ僕を前から目の敵にしていたんだ」
「え?安住のことをか?気のせいじゃないのか?」
「倉沢は天然だからわからないんだ。アイツのお前を見る目は欲情しているよ」
「ええ?!そんな。見間違えだろう。お前、なんでも自分と同じように思うなよ」
「いやいや仮に恋愛感情がなくても、好きな先輩と一緒にいたいって思いはあるだろうが!」
「んー。それならなんとなく。だが、俺は好かれてるのか?」
「倉沢は本当に無意識タラシなんだな」
「なんだよそりゃ?」
部署に着くと早瀬が土下座してきた。
「申し訳ありませんでした!どんな罰でもうけます!だからここに居させてください!」
「はあ?ここは江戸時代か?」
「昨日はつい本音が……いえ日頃思っていたことが。えっと。その、二人が仲良すぎて羨ましかったんです」
「羨ましい?ああ。そっか。なんだそんな事か」
安住の言った通りだな。俺は後輩に好かれていたのか。
「それと土下座とどう関連しているんだ?」
「昨日はつい本音を言ってしまったんですが、よく考えたら室長と副室長ってプロジェクトの権限を持ってる人だって気づいて」
「ははは。それぐらいで優秀な人材を外したりしないよ」
「優秀? 俺がですか?」
「そうさ。早瀬がいるからこの部署は明るくやっていけているんじゃないか。お前を気に入ってるクライアントもいるんだぜ。明るくハキハキして一生懸命な子だって」
「ほんとですか?倉沢さん、俺の事ちゃんと見てくれているんですね!」
「当たり前だろ。だが、もう飲みすぎるな」
「わかりました!ああ俺、やっぱり倉沢さん好きっす!」
早瀬が俺に抱きついた。
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