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閑話その1-2
「はぁ。天然タラシモードが発動している」
僕が頭を抱えていると早瀬がニヤニヤしながらやってきた。
「安住さん。なんっすか?ひょっとして妬いてるんすか?にひひ」
「うるさいよ」
「いやあ、でも気持ちわかりますよ。あの人、普段は仕事一筋で真面目で冷静沈着って感じなのに、ときどきふわっとした表情見せてくれたりして、そこがマニアには堪らなくて」
「マニア?!」
「あっとヤバい。聞かなかったことに……」
「できると思うか!」
「無理っすね。あ~、親衛隊だと思ってくれれば」
「親衛隊?いつの間に?そんなものができてたんだ?」
これ以上倉沢が人気者になったりしたら嫌だ。
「いや、変な集まりじゃないっすよ。ただこう、壁の花になって倉沢さんと安住さんを見ていたいな~っていう」
「集まり……?なんだそれ?」
「まあ要するに腐女子の『推し』ってやつっすよ」
早瀬が言うには職場の潤いの一環に役立っているんだという。悪いものではないと聞かされた。
「僕たちを歓迎して見守っているってことなのか?」
「そうっすよ。でも彼女らもどっちがどっちってのがあるらしいから閨事関連はあんまり公にしないほうが良いっすよ」
「そんなの口に出して言うわけない!」
「はいはい。俺も聞きたくありませ~ん。それより、週末でしょ?俺ら二次会用意してるんで」
「あ、ああ。悪いな」
「いいっすよ。俺もこれで失恋の痛み卒業して次に進めそうですからね」
早瀬は倉沢に恋心を抱いていたはず。相変わらず軽口ではあるが傷ついていたのはわかっている。ほんの少しだけ罪悪感がわく。
「そんな顔しないでくださいよ。俺|今《・》|は《・》安住さんの事も気に入ってるんっすよ。俺じゃまだまだ二人に追いつけないなって気づいたんでね」
「今は……か。ふん。そういってすぐに僕を追い越すつもりでいるくせに」
「ありゃバレました?にひひ」
こういうところが抜け目ない。だがまあ悪くない。自分自身を磨き続けるためにもライバルは多い方が良いだろう。
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