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第1話-2

「お待たせしました~」  気まずい雰囲気の中、料理が運ばれてきた。黒い石の器に鶏肉が丸ごと入ってるのが見える。クリスマスの七面鳥みたいだ。 「|参鶏湯《さむげたん》だよ。あっさりしてて胃に優しいんだ」 「食べやすいデスよ。人参となつめも入ってるので滋養にも良い。疲れてる時は身体にイイデスよ」 「はは。店の人に先に言われてしまったな。最近倉沢が疲れ気味な気がしてね。僕も徹夜が続いてたし一緒に食いたかったんだ」  はにかむ様な笑顔がまぶしい。やっぱり安住は王子様みたいだ。 「ありがとう。気にかけてもらって嬉しいよ」 「当たり前だろ。僕たち伴侶じゃん……」  声が小さくなっていったのは恥ずかしいからだろう。耳が赤くなってるのが見える。ああ可愛いなあ。 「うん。嬉しい。俺の伴侶は気配りが良くできる」 「「いただきます」」  白いスープはほんのり塩味がきいたあっさり味だった。鶏肉は柔らかく、ほろほろと骨から外れる。 「あれ。米が出てきた……?」  スープがゆのような感じだ。胃に優しそうだな。一口食べると体に染み入るような感じだ。自分では気づかないうちに疲れていたのかな。 「うん。鶏肉の中にもち米などを詰めて煮込んであるんだ。コラーゲンも豊富だから女性にも人気があるんだよ」 「薄味かと思ったが食べ続けてくとこれくらいがちょうどいいな」 「うん。ほどよいね。それに朝鮮人参、なつめ、松の実、クコの実、栗、にんにくなどの漢方の食材が入ってるから、疲労回復、血行促進やストレス改善など弱ってる身体を本来の機能に戻してくれるんだ」 「漢方っていうからもっと薬っぽいのかと身構えたが、普通に美味しいし食べやすいぜ。ありがとな。わざわざ近場で探してくれたんだろ?」 「いやぁ。僕も食べたかったんだよ」  安住の口元が上がってる。嬉しそうな表情を見てるとこっちまでニヤけてくる。そういえばこいつのこんな顔を見るのは久しぶりだな。それだけ仕事に追われてるということか。仕事に忙殺されてプライベートの時間まで失くしてしまうところだった。 「ちょうど一時間だったね。ちょっとは気晴らしになった?」  食べ終わるとすぐに社に引き返してきた。この時間帯はエレベーターに乗る人も少ない。二人だけだ。乗った瞬間俺は安住を抱きしめた。 「く、倉沢……」 「もう少し充電させてくれ」 「……うん」 「ごめんな。俺は優柔がきかない。仕事を達成する事に集中するとお前をないがしろにしてしまう。寂しい想いをさせてたんじゃないか?」 「そ、そんなこと……ない」  嘘だな。安住は俺に嘘をつけない。ついてないはずの尻尾や耳が俺には見える気がするからだ。普段は誰にでも愛想よい王子様気質で本音を人に見せないのだが、俺の前では素でいてくれる。そんなところが堪らなく可愛い。 「本当はさ、安住の飯が一緒に食いたいんだ」 「っ! うん。作るよ。何でも言って!」  途端に輝くような笑顔を見せる。でも何言ってんだ。俺が帰れないって事はお前の仕事も忙しいってことじゃないのか? 「今回の企画の最終段階はもう終わったから少しはなんとかなるんだ」 「本当か? あさってなら早くあがれそうだぜ」 「そうか! じゃあ晩御飯何が良い?」 「揚げたてのからあげとか食いたいな」  胃袋って贅沢なもので、あっさり系の次はがっつりしたものが食いたいって思ってしまう。 「わかった。まかしといて!」  嬉しそうな安住の背後で大きな尻尾が揺れてる気がした。

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