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第2話-1 特製からあげ
安住の作る飯はとても旨い。食べるとほっこり身体に染みるというか。安心するというか。本当に俺の事を想って作ってくれてるんだなあって感動することがある。
「あいつと俺は味覚があうんだろうなぁ。俺の好みの味なんだよ」
コンビニの弁当をたべながら、思い出すのは安住の手料理だ。料理のできない俺の代わりに、安住はいつだって夕飯を作ってくれていた。こんなに忙しくなるなんて思わなくて、胃袋を掴まれた俺は安住の手料理が恋しくて仕方がない。だからついコーヒーを飲みながらぽつりと独り言を言ってしまった。
「だから、それが惚気だって言うんですよ!」
胡乱気な目を俺に寄こすのは部下の早瀬だ。体育会系のノリのいい青年で最近では仕事もかなり板についてきた。得意先への評判もいい。まだ本人には伝えてないが次のリーダー候補のひとりだ。
「いや、全然違うぞ。俺は惚気てなぞいない。本当のことを言ってるまでだ。安住の作る料理は旨いんだ」
「はいは~い。ごちそうさまでした」
「くすくす。パートナーの良さを語れるなんて素敵ですね」
俺の向かいに座っている事務の佐々木さんが話に分け入ってきた。彼女は黒髪ストレートの帰国子女だ。海外からの受注も増えてきた中、貴重な外国語が話せる人財なのだ。
「佐々木さんダメっすよ。甘やかしちゃ。この人無自覚で惚気だしちゃうんですから」
「あら、でも安住さんの凄さも皆わかってるからいいんじゃないですか?」
「ああ。俺が言わなくても皆理解してくれてる。ただ俺が言いたいだけなんだ」
「新婚さんですものね」
「し……新……そ、そうだが……その」
急に言われて顔が熱くなった。俺たちは半年前に結婚式を挙げたところだ。確かに新婚と呼ばれるに値するだろう。でも、面と向かって言われるとなんとも気恥ずかしい。早瀬に惚気てるといわれても仕方ないなと自覚した。
「……ぐぅっ」
前方から何か押し殺したような音が聞こえて顔をあげると佐々木さんが鼻を抑えているのが見える。
「どっ、どうしたんだ?大丈夫か?」
「ご心配はいりません。きっと大丈夫です!」
飛び出してきたのは佐々木さんの同僚の女性社員だった。
「ふが……だいじょうびでしゅ」
二人でそそくさとトイレに駆け込んでいく。
「なんだ? 何がどうした?」
「はぁ。そんな真っ赤な顔して。可愛すぎて恐ろしいっす。彼女、萌え散らかしただけだと思いますよ」
「燃え散らかす? 何か燃えるモノがあったのか」
「そうみたいっすね。さあ、休憩時間も終わったんで仕事しましょ!」
「あ? ああ。わかった。では早瀬の担当の進捗を聞かせてもらおうか」
「ひぇ。そう来ますか。ではまずは~……」
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