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第2話-1 お前の初恋
レンは一人暮らしだ。父親はどこかの金持ちらしいが母親は本妻ではないらしく、早いうちから一人で生活し始めた。だからレンの家は俺たちの隠れ家的な場所でもある。
「散らかってるけどあがれよ」
ベットの上に脱ぎ散らかかされた服があるくらいで、いつもどうりに綺麗に整頓された部屋だった。
「何言ってんだよ。お前の家いつも綺麗に片付いてるじゃんか」
「一応、いつでも出て行けるようにな。クソ野郎には俺が学生の間は養育費を払うと約束させているが、狸ジジイだからな。いつどういう風に手の平を返すかわかったもんじゃねえからな」
クソ野郎とはレンの父親のことだ。一度だけ会ったことがあるが威圧的な態度のおっさんだ。レンの容姿はそいつによく似ている。本人は毛嫌いしているが並んで歩くと間違いなく血のつながりがあるとわかるだろう。
「もし、追い出されそうになったら俺のところに来ればいいさ」
「はは。ありがとうよ。でも、まあ。それはまだ早いかな。俺はそんなヤワじゃねえってことはお前もよく知ってるだろ。別の手は考えてあるさ。心配するな」
確かにレンは度胸もあるし人を扱うのが上手だ。気味が悪いくらいにおふくろが褒めちぎってたのを見たことがある。
「それよりも見せてみろ。無茶ばっかしやがって」
俺の手に湿布を貼りながらレンが心配そうに見つめてくる。殴った時に手の甲を少し痛めたようで赤く腫れていた。
「頼むからケガだけはしないでくれ」
「すまねえな。その、いつもお前に心配かけちまって」
「そう思うなら俺を呼んでくれ」
「あ~。まあ、その。ほら、俺が手を出した方が早いし」
レンは喧嘩も強いが口がたつ。それに頭の回転が速い。俺が手を出す前にいつもカタをつけようとしてくれる。それとなく誘導していかにも自分がそう考えたのだという風に思わせる手口は凄いと感心するくらいだ。将来は有能な弁護士になるだろう。いつまでも俺なんかとつるんでるとろくなことがない。早くこいつを俺から解放してやらねえと。
「何を馬鹿なことを! 自分の身体を大事にしろ!」
「……別に自分の身体だからいいだろ」
「何言ってる!お前最近変だぞ!急に進路も変えちまうし、俺と進学したいってのは嘘だったのか?」
「嘘じゃねえ。出来ればいいなって……思ってはいた」
そうだ。レンといられるなら進学もいいとは思っていた。幸か不幸かテストの成績は悪くない。もちろんレンのスパルタ勉強のおかげなのだが。きっとコイツは俺と同じランクに進むと言っていただろう。でもそんなの良いわけないだろう。俺よりも、もっと上に行けるやつなのに。だから俺は進学をあきらめたんだ。
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