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第27話

「だ……っ」 誰もそこまで言ってない。 が、最終的にはそういうことだ。 前髪を乱暴に掻き毟り、あからさまなため息をついた。 まったく厄介な。何で王族なんかと結婚してしまったんだろう。 ……いや、それだと少し違う。 何で彼が王族なんだろう。 意味のない自問自答を繰り返し、柵に寄り掛かる。 たまたま良いと思った奴が男だっただけで、……王族だっただけだ。今さら嘆いても仕方がない。 ノーデンスは両手を上げ、降参のポーズをとった。 「……言わないよ。あの子の前では死んでも言わない。約束する」 というか、会わせてもらえないなら杞憂でしかない。そして次に会える時が来るとしたら、その頃には忘れてそうだ。 ルネはわずかに微笑み、ノーデンスの唇に触れた。 「何度も言うけど、本当に会いたかった。愛してる」 だから……自分から出て行ったくせに、どの口が言うのか。 会いに来るどころか手紙ひとつ寄越さなかったくせに。本当ならこのテラスから蹴り落としてやりたいぐらいなのに、左手の薬指で光る指輪を見るとその気も失せてしまう。甘過ぎる自分に反吐が出る。 「以前は……何が原因なのか分からなかったから、私の方から距離をとった。でも今回は違う方法を選ぶことにする」 「え?」 原因? ……方法? ルネが何の話をしてるのか理解できず、瞬きを繰り返す。しかし彼は深く説明する気はないようで、ただ優しく手を取るだけだった。 「明日国に帰ろうと思っていたけど、気が変わった。少しの間、私もまたここに住まわせてもらうよ」 「はあぁっ!?」 あまりに突飛な提案に、真夜中ということも忘れて叫んだ。 「ふ、ふざけんな……ここはもう俺だけの家で、お前は部外者だ。明日には絶対追い出すぞ!」 と宣言したのは、昨夜の話。今朝は世界の終わりを目にした……ひと言で言って、絶望した。 「国王陛下、ご無沙汰しております。突然ですが、またしばらくノーデンスと過ごしたいと思いまして……この国でお世話になってもよろしいでしょうか。家は自分で借りて、皆様にご迷惑をかけないように致しますので」 「ルネ王子……いや、それはノースだけでなく私にとっても嬉しいことだ。心配しなくても城には部屋がいくらでもあるから泊まればいい。と言うよりノースと同室で構わないだろう?」 朝一の謁見で、ルネは堂々とローランドに希望を申し立てていた。しかも対するローランドは喜んで歓迎している。あまりに不可解なやり取りに絶句し、入り口で突っ立ってしまった。 おかしい。一年も音信不通だったくせに、よくもまぁ国王の前に平然と顔を晒せるな。あいつには気まずいという感情はないのか? それか、あくまで迷惑をかけた相手は俺だけだと思ってるのか……。いや、そこまで無神経で厚顔無恥じゃない。と思いたい。 陛下も陛下だ。何で快諾してるんだ。昨日爆弾で危険な目に合ったっていうのに頭の中は花畑か。 朝、ソファで寝ていたはずのルネがいなくなっていた為、嫌な予感がして謁見の間へ向かった。案の定この状況である。目眩と怒りによる震えを同時に味わうのは初めてのことで、しばらく動けずにいた。 周りの家臣や護衛達も、狼狽えつつもルネの帰還に顔がほころんでいる。何故だ。誰でもいいからつっこめ。何で今さら帰って来たのか、何で今まで姿を現さなかったのか! 踵を踏み鳴らし、通路のど真ん中を大股で歩く。それに気付いた護衛達が顔色をさっと変えたがどうでもよかった。目の前で屈んでいる男の真後ろまで進み、腕を掴んで強引に立ち上がらせる。 「何やってんだお前は!」 「あぁ、おはようノース。今ちょうど陛下に御許しいただいたところなんだ。また改めて、ランスタッドでお世話になる」 「人をおちょくんのもいい加減にしろ! 帰れ!」 こんな場所で堂々と口論するわけにはいかない。ルネの袖を掴んで引きずり出そうとしたが、不意にローランドが手を叩いた。 「うーん……そうだ。ノース、城の東に建てたばかりの家がある。しばらくはそこに二人で住めばいい!」 「は」 ……冗談だろ。お花畑どころじゃ済まされないぞ。 ルネが戻ってきたことを自分のことのように喜んでくれているのは、本当は嬉しい。有り難いと思わなければいけない。ただ今だけはそんなキャッキャウフフな幸せに浸ってはいけないだろう。どいつもこいつも、何で昨日の強襲を忘れてるんだ。 「陛下……ファギュラの人間がまだ国内に潜伏している可能性があります。私は武器屋の代表として国を護る責務があるんです。城を離れるわけにはいかないので、やるとすればルネだけをその家に押し込んでいただいてもよろしいでしょうか」 「変な敬語だなぁ」 隣でルネがなにか言ったが、無視して頭を下げた。しかしローランドからは残酷な言葉が返ってきた。 「ありがとう。お前の判断と忠誠心にはいつも助けられている。今回のことも含め、私はお前に幸せになってほしいんだ。警備に関してはこちらで指示をするから、心配しないで王子と過ごしなさい」

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