39 / 98

第39話

血の繋がりなんて重要じゃない。結婚自体赤の他人と家族になる行為だ。他人と他人の間から新たな命をつくるのだから。 「皆、ノーデンス様だ! ルネ様もいるぞ!」 一週間ちょっと訪れてないだけで酷く郷愁を感じる。工場の鍛圧機械が絶え間なく唸りを上げ、職人達が鉄を打つ音が響く。埃っぽさはないが煙くて熱気が充満し、ただ立ってるだけで汗が流れた。一族以外の者は敬遠する場所だが、ルネはここへ来ても顔色ひとつ変えず、懐かしそうに挨拶をした。 「お仕事中にお邪魔してすみません。皆さんお元気そうで安心しました」 「ルネ様が戻られたことはお聞きしてました。ノーデンス様、良かったですね!」 自分とルネより一回り歳上の男達がわいわい盛り上がっている。恐らく悪気はなく、純粋に喜んでくれている。しかし「良かったですね」と言われるのはこれで何回目だろう。手放しで喜べない事情がある為、正直ウッとなる。 「ノーデンス様に愛想をつかして、もうルネ様は戻ってこないんじゃないか、なんて言ってたんですよ~」 「おや……それはそれは、ご心配をおかけしました。でも大丈夫ですよ。一年後に必ず迎えに行くと彼にも伝えていたので」 ルネはルネで、平然と嘘をついている。彼を誠実な青年と認識している職人達はあっさり騙されていた。 「オリビエ様はお元気ですか? 久しぶりに会いたいなぁ……!」 「えぇ、もう私の姿が見えなくても色んなところへ行こうとしますよ。今はヨキートにいるんですが、近いうち必ず連れてきます」 少ししてルネはこちらへ戻ってきた。 「皆本当に一生懸命で……職人としての熱意と誇りを持ってる。素敵だね」 「まぁな。ここが潰れたらランスタッドを守る後ろ盾がなくなるも同じだ」 ガラス張りの壁に手を当てる。機械が熱で鋼材を溶かす様子を見守りながら、小さなため息をついた。 現実は、力を持たない者が平和を守ることなどできない。そんな綺麗事が成り立つ世界は御伽噺の中だけだ。 「私もノースと同じで皆大切だから、怪我をしないで元気に過ごしてほしい。なにかと恨まれたり、狙われたりする職種でもあるからね。……昔みたいに」 「大丈夫さ。俺は昔みたいに非力じゃない。力の使い方を覚えたし」 「でも私は君にも無理をしてほしくない。本当は闘うよりも逃げてほしい」 そっと手を握られる。思わず視線を下げると、焼け付くような強い眼差しが向けられていた。

ともだちにシェアしよう!