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7日目:調教完了

 ついに、「その日」が訪れてしまった。  『今から七日間、徹底的に快楽を仕込んでやる。』  ザラキアが告げた数だけきっちりと日々が経過し、シンジは今、檻の中の狭く小さなベッドの上で、膝を抱えて座り込んでいた。言いつけ通り、同じ檻の中で飼われている掃除蟲(スカベンジャー)に餌をやりはしたが、どうにも調教を受ける前の、あの淫靡な不安と淡い期待で体中を満たされるような気分になれない。立てた膝の上に顔を埋めたまま、重苦しい溜息ばかりがこぼれ続ける。  その手でシンジに黒い首輪を嵌めた淫魔の青年の訪れを、これほど待ち遠しいと思ったことはなかった。だというのに、いつもと変わらない陽気で軽やかな足音が近づいてくると、ビクリと身を竦ませてしまうシンジがいる。  そんなシンジの異変には、ザラキアもすぐに気が付いたようだ。  「──あぁん?…シンジ、お前、何やってんだ。湿っぽいツラしやがってさぁ…。」  ベッドの端に腰掛けたまま、胸騒ぎも露わな上目遣いの黒い視線をのろのろと持ち上げて主人を見上げる人間の性奴隷の檻の扉を開けると、珍しく、ザラキアはそのまま檻の中にツカツカと入ってくる。どう見ても調教を受ける前の性奴隷にはふさわしくないシンジの表情、その理由を問うように、琥珀色の肌を持つ長い指が顎先を捕まえ、クイ、と上向かせて無理矢理視線を重ねてきた。  「具合でも悪いのか、今日になって?──だが、そういう風にも見えねぇ。淫魔には、ある程度は他人の気分が見通せる。お前は、どう考えても『そういう気分』じゃない。」  「…あの、ご主人様(マスター)──。」  顔を上げさせられた先には、溜息が出るほど美しい、しかしそれを誇らないザラキアの顔がある。彼は今、端整な眉根を寄せて藍色の瞳を細め、訳が分からない、といった表情でシンジを見下ろしていた。  ありったけの勇気を振り絞って、シンジは口を開く。  「…僕は、今日、このままどこかに売られるんでしょうか──?ご主人様(マスター)の手を離れて、他の、顔も知らない魔族のところに──。」  「ハァ?何だよお前、自分の行き先なんか心配してたのか?」  「だ、だって──。…怖いんです。僕は、ソドムのことを何も知りません。解ってるのは、この街では人間は奴隷だっていうことだけ。…僕を拾ったのがご主人様(マスター)でなければ、捕まって、犯し殺されてたかもしれないって…。それに、僕は──。」  その先をどう言葉にしていいかわからなくて、しばし押し黙る。  もう、自分の気持ちを偽ることはできない。ザラキアの手でここまで調教され、その言葉に従っている時が何よりも幸せだった。人間の世界に神様というものがいるのだとしたら、人生の全てが無意味で、苦しくて、自殺まで考えたシンジの為に、異世界で性奴隷として生まれ変わるという、自分にピッタリな選択肢を与えてくれたのかもしれない。  それくらい、この身体はどこもかしこもザラキアの為に造り変えられてしまっていたし、いまさら元の世界へ戻りたいとも、ましてや魔族の調教師でありながら優しいザラキアの元を離れたいとも思わない。  縋るように見つめるシンジを見下ろし、ザラキアはゆっくりと口を開いた。  「──シンジ。ここじゃあお前たち人間は、魔族の所有物だ。人間の性奴隷(セクシズ)が自分の行き先に口を挟むなんて、お門違いもいいとこだぜ。そんなことを口に出すんじゃない。」  「そんな──!」  絶望に打ちひしがれるシンジの黒い瞳を見詰めながら、ザラキアは不意にへらっと笑顔になる。  「…だが、俺様はそこまで無慈悲な性格じゃない。これが、ただどこかの屋敷から逃げ出してきた開発済みの人間だったり、別の魔種から調教を依頼された人間だったりしたら話は別だが、お前は数百年か数千年に一度の迷い人(ワンダラー)だ。しかも、俺の手で仕込んで、俺が全てを教え込んだ初物。──それに、俺様は、懐いてくる人間は嫌いじゃねえんだ。シンジ、全ては明日に掛かってる。…そのための仕上げだ。来い。」  シンジの首に嵌められた黒い首輪に鎖を取り付け、それを巻き取りながら、檻の外へと連れ出そうとするザラキア。その後に従って素直に歩き始めるシンジの前で、ザラキアは静かに口を開いた。  「…明日は、十年に一度の饗宴(サバト)がある。ソドムの名だたる奴隷調教師が集まって、自分の『作品』を披露する日だ。当然、最高ランクの性奴隷調教師であるこのザラキア様が顔を出さない訳にはいかねぇよな。」  ザラキアが語る饗宴(サバト)。それは壮大で、奇妙で、退廃していて、異世界から来たシンジには想像もつかないことばかりだった。

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