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第3話 過去を知りたい

 お互いに色々な過去がある。まだ二十歳の礼於にだってホストになった経緯がある。傑にも長い間、胸に秘めた思いがあった。36才の男だ。それなりの経験もある。つらい覚悟をした過去がある。礼於と傑、お互いに触れない過去があった。 「傑は年の分だけ、ボクよりたくさん秘密があるでしょ。一つ一つ話して欲しい。ゆっくりでいいから。  どんな子供だったか?とか高校生の頃の話とか。ボクの事も話すけど、20年しか生きてないから、あまり、面白くないかも。」 「ああ、礼於の事なら何でも知りたい。 でも、今の礼於は私のものだろう? 大好きだよ。」 礼於は嬉しそうに抱きついてきた。  店を開ける。「バー高任」 ジャズとシングルモルトの店。たいして客も入らないが、傑の思い通りにやっているバーだ。    スコットランド西岸、南端の小さな島、アイラ島で5年ほどウヰスキー作りを手伝った。 「スグル、ずっとここにいろよ。 嫁さんを世話してやるから。」  蒸溜所のハウスマンのジンジャーに引き留められたが日本に帰る事にした。  何かにつけて親切に世話してくれたジンジャーに別れを惜しまれながらも、日本に帰って来た。 ハジメが恋しかった。自分のモノにはならない男。それでも一目逢いたかった。  バーを開くにあたって、渋谷のバーテンダースクールで基本を学んだ。  ジンジャーの引き留めるのを断ったのは、傑がゲイだったからだ。アイラ島にいる間、恋人は作らなかった。思うのはハジメの事ばかり。  修行僧のように、ウヰスキー作りに没頭した。そんな事を知らないジンジャーは、しきりに嫁さんを世話しようとした。島に永住して欲しかったようだ。

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